あなたに似た人1
「どうぞ」
皿に盛られたオムレツが、目の前に置かれる。つるりとした表面は鮮やかな黄色で、赤いトマトソースがかけられていた。待ちきれずに握ったスプーンを差し込み、大きめにすくって口に入れる。
バターの香りと卵の甘さ、チーズの塩気にトマトソースの甘味と酸味。とろりとした食感。予想以上の美味しさに、ウェインは目を見開き、無言でクリスを見た。悪戯が成功したかのような笑みを浮かべる兄に、ウェインは喉を慣らしながら飲み込むと、
「美味しい……! すっごく美味しいよ、兄さん」
「そうか。お前が好きな、チーズ入りオムレツだ」
「うん、これ好きだ。兄さんのオムレツは世界一美味しい」
手を止めずに、オムレツを口に運ぶウェイン。「大袈裟だな」と笑うクリスの声を聞き流しながら、忙しなく手を動かし、やがてぴたりと止めた。
「あ……なくなっちゃった」
ウェインは、まるで世界中の悲しみを集めたような顔で、空の皿を見つめる。しょんぼりしていると、クリスが誤魔化すように咳払いをして、
「んんっ、おかわりはいるか、ウェイン?」
「食べる! ありがとう兄さん!!」
パッと顔を輝かせたら、クリスが盛大に吹き出した。
とろけるような顔でオムレツを口にするウェインを、クリスは微笑みながら眺める。
十年前のあの日、朝食にトーストと目玉焼きを出したら、弟は頬を膨らませてオムレツが良かったと言い、自分はわがままを言うなと叱った。ウェインが仕方なくトーストをかじりながら、明日は絶対オムレツにして、チーズ入りで、トマトソースかけて、と言うのを、はいはいと聞き流したことを、後悔しない日はない。
材料は揃っていたのに。なぜあの時、オムレツにしてやらなかったのか。
毎日、チーズ入りオムレツを作った。いつウェインが帰ってきてもいいように。
焦げ目がついていたオムレツが鮮やかな黄色になっても、つるりとした表面と完璧な形になっても、弟は帰ってこなかった。
「サラダとパンも食べなさい」
「あっ、はい……」
二皿目を平らげてしょんぼりするウェインに促すと、渋々パンをかじり出す。クリスは苦笑いを浮かべて、
「ちゃんと食べたら、またオムレツを作ってやるから」
「うん!!」
猛然と食べ出すウェインに、クリスは口元を押さえて笑いを堪える。
こんなに楽しい時間を過ごせるのなら。
全てに目をつぶってしまいたい。
クリスは、一生懸命にサラダを食べるウェインを見て、オムレツを作ろうと立ち上がる。
そう、これが最善なのだ。
目の前の相手を、弟として受け入れることが。