あなたに似た人1
「ちょっと、あんた」
明るいスーパーの店内、老女が缶詰を並べている青年に近づき、声をかける。
「はい、なんでしょう?」
スーパーの制服を着た小柄な青年は、手を止めて振り向いた。老女は、少し離れたところで調味料を吟味している初老の男を指差し、
「あいつは魔道士だよ。間違いない」
「は?」
目を丸くする青年に構わず、老女は嘆かわしいとばかりに首を振る。
「全く、魔道士が平気な顔して出歩くなんて、あたしの若い頃には考えられなかったよ。いいかい、あんたは分からないだろうけど、魔道士なんかに近づくんじゃないよ。あいつらは、神様を冒涜する悪魔なんだから」
「ええと……」
青年の戸惑いに構わず、老女は首を振りながら立ち去った。その後ろ姿を見送る青年に、同じ制服を着た中年女が声をかけた。
「ルロイ君、大丈夫?」
「え? ああ、はい」
ルロイはこくこくと頷き、頭をかく。
「なんか、魔道士がどうこう言ってました」
「あのおばあちゃん、いつもそうなの。関係ないお客さんを魔道士だーとか言って。それ以上のことはしないから、はいはいって聞いておけばいいんだけどね」
中年の店員は肩をすくめ、
「今どき、魔道士がどうこう言う人のほうが珍しいわよ。それに、あのおばあちゃんいつも見当違いなの。本物はあっち」
そう言って視線で示した先に、グレーのスーツを着た細身の男がいた。歳はルロイとそう変わらなそうだが、向こうは頭一つ分は背が高そうだ。
「えっ? あ、えー、そう、なんですか?」
ルロイが半端な笑みを浮かべて聞くと、相手は「そうよ」と頷く。
「前に、新聞に載ってたもの。なにかの捜査に協力したとかなんとか。見た感じ、別に普通の人よね?」
「あー、まあ」
棚を一瞥してから、すたすた歩いていくスーツの男を見送った。
「魔道士って、スーパーで買い物するんだ」
ルロイの呟きに、店員の女は吹き出す。
「魔道士だからって、別に変わらないわよ。私の友達の旦那さんの従兄弟の同級生が魔道士になったらしいけど、普通だって言ってたわ。スーパーで買い物するし、箒で空を飛ばないし」
ルロイが箒で空を飛ぶ魔道士を想像していたら、
「ルロイ君! 大変だ!!」
店長が血相変えて飛んできたので、ルロイの頭から魔道士のことは消し飛んでしまった。