あなたに似た人1
コーヒーショップのテーブル席で、女性が二人、熱心にカタログを眺めている。
昼を少し回った時間帯、大方の客は自分の職場に戻り、店内は落ち着きを取り戻していた。
「ほら、アマンダ。これはどう?」
「うーん。素敵だけど、胸が開きすぎじゃない?」
友人であるサラの示したドレスに、アマンダは首を捻る。
「なに言ってるの。このくらい普通よ。主役の花嫁様なんだから!」
サラの言葉に、アマンダはくすくす笑いながらコーヒーに口をつけた。
結婚式代わりのパーティーは来月に迫っている。今日は女友達とドレスを選ぶ予定だ。指輪は来週、愛しい婚約者と。
アマンダの幸せな空想は、サラの促す声に中断される。
「ほら、そろそろ予約の時間じゃない?」
「ああ、本当だ。行こうか、サラ」
残りのコーヒーをあおり、アマンダは立ち上がった。サラが差し出したカタログを鞄に詰め、店を出る。
「ルロイが来れなくて残念だったわね」
横に並んだサラの言葉に、アマンダは肩をすくめ、
「来週の休みを取る為だから、仕方ないわ。指輪は絶対一緒に選びたかったし」
「そうね。ドレス選びには役に立たないだろうし。どうせ、なに着ても『綺麗だよ、アマンダ』としか言わないでしょ」
サラの物真似に、アマンダは堪えきれず吹き出した。
「ちょっと、今のルロイの真似?」
「そうよ。そっくりでしょ?」
「全然似てない!」
二人は肩をぶつけあいながら、くすくす笑う。
そして、アマンダが突然立ち止まった。
「アマンダ?」
振り向いたサラに目もくれず、アマンダは放心したように口を開き、
「あ……わあああああああああああああ!!」
叫び声をあげると、弾かれたように駆け出した。
「アマンダ!?」
サラが制止しようと手を伸ばすが、アマンダは叫び声をあげながら走り続け、そのまま道路に飛び出した。
「アマンダ!!」
サラの叫び声と、甲高いブレーキ音がほぼ同時。一瞬置いて、鈍い衝突音が響き渡る。
誰かの悲鳴を皮切りに、騒然とする周囲から置き去りにされて、サラは手を伸ばしたまま立ち尽くしていた。