小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

死神と魔法使い2

INDEX|4ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

「二十年もこの女の好き勝手にさせてやったのよ!? いい加減、分を弁えてほしいわ!! あなたは私の男よ!! 目を覚ましなさい!! いつまであの化け物に縛られてるつもり!?」
「ジャネット!!」

蒼白になるランディに、ジャネットはフンッと鼻を鳴らして、

「あの醜い女と離れられるのよ? 泣いて感謝してもいいんじゃなくて?」

ランディが震えながら拳を握り締める中、セレンの静かな声が響く。

「別れないわよ。彼の人生は、私がもらったの」



その瞬間、ジャネットが弾かれたように動いた。ランディが止める間もなく、階段を駆け上がり、セレンにつかみかかろうとする。だが、その手が届くことはなく、ジャネットは階段下でたたらを踏んだ。
ランディも、ジャネット本人も、なにが起こったのか分からず、沈黙が降りる。そこに、パチパチと拍手する音が響いた。

「やあ、すごいな。陣も式も使わずに、転移魔法を使うなんて。さすがの腕前ですね、カーティス夫人」

薄い緑色の目を輝かせた青年に、セレンは軽く頷いて、

「ごめんなさいね、アットウェルさん。お騒がせしてしまって」
「どうぞルイスと呼んでください。またお会いできて光栄です」

セレンの視線が、扉の陰にいるヴィクトルに向けられる。一瞬、驚いたように目を見張るが、すぐに表情を消して、

「そちらは、アットウェルさんのお連れかしら?」

ルイスは振り向き、無言を貫くヴィクトルの腕を取った。

「ヴィクトルです。彼は僕の」
「なあに、黒づくめで気持ち悪い。死神みたいね」
「ジャネット!!」

ジャネットの無遠慮な発言に、ランディがたしなめるように名前を呼ぶ。ルイスは目を瞬かせて、

「ええ……当てずっぽうとはいえ、その発言はまずいですよ。彼、本当に死神なんで」
「は?」

ランディとジャネットの声が重なった。ルイスはやれやれと頭を振る。

「お二人とも元魔道士ですから、今の発言のまずさは分かります……よね? 多分。死神を死神と認識してしまうと、死の縁が結ばれてしまいますから」
「ああ、確かに結ばれたな」

ヴィクトルが肩を竦めて言った。

「だから、黙ってたんだがな。あんた、魔道士向いてないわ」
「まあ、いいんじゃないですか? この程度で死ぬなら、それはそれで」

ルイスが朗らかに言うと、ジャネットは金切り声をあげて、

「ふざけないで!! 今すぐなんとかしなさい!!」
「ああ、いいぜ。ほら、手を出せよ」

ヴィクトルが手を差し出すと、ジャネットは弾かれたように退く。

「触らないで!! 死神なんて、冗談じゃないわ!!」

ジャネットはそう叫ぶと、ルイスを押し退けて玄関を飛び出していった。

「ごめんなさいね、騒々しくて」

セレンがゆっくりと階段を降りてくる。ランディが、ハッとして妻に駆け寄った。

「セレン、その、彼は本当に」

言いにくそうに口ごもるランディに、セレンは仕方ないという視線を向けて、

「ランディ、後で説明するけど、死神は邪悪な存在ではないの。死の縁は、そう……少し不運なことが起こる程度よ。テーブルの角にぶつかるとか。だから、そんなに気に病む必要はないわ。アットウェルさん、ヴィクトルさん、失礼な態度を謝罪します。申し訳ありませんでした」
「どうぞお気になさらず。あなたがたに非はないので。むしろ、ご夫君に不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」

ルイスが大仰な仕草でお辞儀をする。ヴィクトルは、セレンの隣で居心地悪そうにしているランディに目を向けて、

「あんたに抵抗がなければ、解くが?」
「えっ? あ、えっと、解ける……んですか?」
「これでも、本物の死神なんで」

ランディの言葉に、ヴィクトルが皮肉げな笑みを浮かべた。
もじもじするランディの背を、セレンがそっと押す。ランディが意を決したように手を出すと、ヴィクトルは苦笑しながら手をかざした。

「別に触らん。……よし、これで大丈夫」

ランディは自分の手をまじまじと見つめたあと、セレンを振り返る。

「あ、その、妻も」
「…………」

ヴィクトルは、無言でセレンを見つめた。セレンはふうっと息を吐いて、

「私は大丈夫よ、ランディ」
「死神を見分けられるほどの魔道士なら、自分で解けますよ。僕はむしろ、縁を切らないようにしたいですけどね」

ルイスが胸を張って言うと、ヴィクトルが呆れたように手で頭を押さえ、ランディが信じられないものを見るような目を向けてくる。本人は全く気にする様子もなく、セレンにお辞儀をすると、

「今日は落ち着かないでしょうし、これで失礼します。また明日、お訪ねしてもよろしいですか?」
「ええ、もちろん。良かったら、一緒にお昼をどうかしら?」

セレンが誘うと、ルイスは「喜んで」と笑顔を浮かべた。



「いやあ、思いがけず良いものが見れましたね! 短距離とはいえ、安定性に欠ける転移魔法を、なんの触媒もなしに使うなんて」

上機嫌なルイスに構わず、ヴィクトルは考え込む様子で黙っている。

「ヴィクトル、なにか気になることが?」

ルイスの言葉に、ヴィクトルは顔を上げた。

「ん……ああ、いや、なんでも」
「隠し事ですか? 隠し事をされると、僕はとことん追求しますよ? しつこいですよ、僕は?」
「うるせえな、お前は」

ヴィクトルは苦笑して、

「あの奥さん、死ぬな」
「えっ!? そうなんですか!? いつ!? なんで!?」

驚いて声をあげるルイスに、ヴィクトルは落ち着けと身振りで示す。

「四十八時間以内……としか言えん。原因は知らんが、事故か事件か自殺だろうな」
「病気や寿命ではなく?」

ヴィクトルは腕を組んで考えたあと、「まあいいか」と呟いた。

「死亡予定ってのがあってな。死神は、四十八時間以内に死亡する人間が分かるんだが、事故や自殺といった、「予定を変えられる」相手には話しかけられねえんだ。それで、試してみたが駄目だったから、そうなんだろう」
「へー……それって、死神が予定を教えられないように、ですか?」
「まあ、そうだな。死神が死亡予定を変えることはできねえが、他の奴の干渉で変えられるんだ。まあ、それなりに、命を賭けてもらわねえと駄目だが」
「死神には、賭ける命がないですもんねえ」

ルイスはふむふむと考え、ポンと手を叩く。

「あ、さっきの小細工はそれですか?」
「小細工言うな。つーか、気づいてたのかよ。油断も隙もねえ」
「ランディの縁を解くとき、妙なことしてるなーと思ったんです。あれ、なんですか? 教えてください」

ルイスが目を輝かせて聞くと、ヴィクトルは溜め息をついて、

「大したことじゃねえ……。簡単な予知っつーか、嫌な予感がする、その程度のもんだ」
「虫の知らせってやつですね!? あれ、死神が使う術だったんですか! 初めて知りました! 僕にも教えてください!」
「やだよ、めんどくせえ」
「酷い!」




夜明け前。
セレンはベッドの中で身を起こすと、隣に眠るランディを見た。
静かに寝息を立てているランディ。念の為かけた安眠の魔法がよく効いたのだろう。
作品名:死神と魔法使い2 作家名:シャオ