ボクとキミのものがたり
キミは、まだ固いアイスクリームに木の匙をつき立てることができず、ずりずりと削り取って口へと入れた。
「ん? 不味くない」
え? アイスのことだろうか? とキミの様子を覗う。
「これ何の木?」
「確か 白樺だったかな」以前書き物をするときに調べたことがあった。
白樺は、木材の風味がほとんどなく、変色も少ない。価格も比較的安価らしいが、今どきは、輸入の白樺がほとんどだろう。
「ふうん。あーん」
目を細めたにゃんこのようなキミが、ボクに向かって口を開けた。
「あーんってねぇ」
「だって、それも気になっちゃったんだもん。誰も見てないからさ。はい、あーん」
誰が見ていようと見ていなくても、……ま、いっか。
ボクも固いチョコミントのアイスクリームを木匙で削り取るとキミの口に運んだ。
そして、ボクの口の前にきたチョコナッツアイスクリームも食べないわけにはいかない。
「美味しい?」
「冷たい」
「美味しい?」
「甘い」
「美味しい?……んーもういい」
暖かな部屋で食べるアイスクリームは、冷たく甘く美味しかったけれど、柔らかくなるのも早かった。
ボクもキミも しゃべるよりも 何度もアイスクリームを口に運ぶのに専念した。
木匙に乗せたアイスクリームを唇で口の中に届ける。
平たいだけの木匙が何度もキミの唇に触れる。いいなぁ。
「美味しかったにゃん」
ボクは、そのキミの冷えた唇に触れたくなって顔を近づけた。
「あ、もう食べちゃったですよ」
そう。もうボクの唇には柔らかな冷たい感触が伝わってきた。
「もうー」
ボクは離れたのに キミがチュッとボクの唇に触れて離れた。
首を傾げ、「味しないのに」と笑った。
ボクの部屋に、キミが来てくれるようになっていろんなことあったね。味覚だけが感じるのが味じゃないよ。キミの仕草もちょっと戸惑う行動も不思議な言葉も みんな素敵な味がある。キミが居てくれたら そういう事にたくさん出会えそうだ。なんてことはキミには言わないけれど、キミは、ボクの心を豊かにしたと思う。
なんてことを思いながら、原稿を広げるボクが居る。
甘いだけじゃなく 幸せな気分にしてくれるアイスクリーム。
ただそれだけなのに……。
― Ω ―
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶