ボクとキミのものがたり
ボクが、机の上の原稿用紙を片付けていると、部屋にいい匂いが漂ってきた。
暑いキッチンで、奮闘しているキミが皿を持って出てきた。
「熱いうちにどうぞ」
「朝ごはん作ってくれたの?」
「今日はウインクしてみました」
自信たっぷりに言うのは何かと見てみれば、なるほど片方の黄身が崩れた目玉焼き。
添えられたサラダにかけられたドレッシングは、料理学校で覚えたものだった。
最近、思いつきでしてくれる料理も見た目だけでなく、美味しさもアップしたようだ。
ご馳走さま。食べ終え、片づけを済ませたキミは いつものようにフローリングの床の敷物の上に座っている。身近な話題やお互いの近況を話すものの、キミは時折、部屋の何処かに視線が泳ぐ。(何を見てるのかな?)その視線の先を探る。
何となく分かってきた時、キミが立ち上がった。
「そろそろいいかなぁ」
キミは、キッチンの冷蔵庫の扉……じゃなくて冷凍庫を開けて両手に持って戻って来た。
「食後のデザートいかがでしょう」
ははぁん。そっか、これを食べる為に朝食を作り、時計を気にして 話もうわの空だったんだね。
卓袱台にふたつのアイスクリームを置いて、ボクの顔をじっと見るキミに聞いた。
「何?」
「どっち?」
キミの顔とアイスクリームのカップを交互に見る。此処で間違えちゃいけない。
「こ…っち…貰おう…か…な」
「にゃん。そっちね」
キミの笑顔で、ボクはどうやら正解したんだと悟った。
「久し振りだなぁ、チョコミント。あ、そっちのチョコナッツで良かった?」
「仕方ないな。チョコミントの方あげる」
そう言うキミの口元は、頬までつり上がるほど嬉しそうだった。キミの大好きなチョコレートアイスだもんね。
「あ、スプーン持ってきてないよ」
じゃぁーん。変な口効果音でキミが目の前に出したのは、アイスクリーム用の木さじ。
「これで食べるのがいいのです。って 本当は、初めてなの。使ってみたくて……」
ボクの驚きは、言うまでもない。いつもは、家にある金属製か木製のスプーンがほとんどで、今まで無料でつけてもらったスプーンは、プラスチックのもだったらしい。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶