ボクとキミのものがたり
「よく来てくれたね。頼りになんてならないけど、人に頼られるのも悪くない気分だ」
「中華まん美味しかった」「温かかった」「嬉しかった」・・・・・・・・
キミは、幾つも言葉を切りながら、あの時のボクに感謝の言葉をくれた。
「あ、それって……」すらりと続いた言葉に、ボクはドッキリした。
なんと、あんな四十ミリ×三十ミリの澄ましたガチガチの顔写真に一目惚れしただけでなく、面接の日にこっそりと見に来たって、そして、覗き見たボクは、履歴書貼付の顔写真よりも ずっと 良かったと言われ、キミの後ろでにんまりしてしまった。
だけど、ボクのマンションに辿り着いて、雪は凌げても あんな郵便受けの前の階段で座り込んでいて、ボクに会えなかったらどうしたのだろう。
あっさり帰って 今もっと、楽しいことがあったかもしれないし、別の幸せを過ごしているかもしれない。
『運命』なんて簡単に語ってはいけないと思いながらも、あるんだなと思う。
『雪の日のミステリィ~こんな夜はお逃げなさい~』
何か見つけなくてはと求人誌を手にしたとき、織り込まれていた募集に応募した作品のタイトルだ。
不思議なキミのことを書いたこの文が、今の仕事に結びついたのだ。
キミに感謝しなくてはと、いつも懸命に書き綴ることで返しているつもりだ。
まったく、未だに夢に出てくるよ、あの日のキミが。雪の降る夜に傘も持たず、服も髪も濡れて、映画で観たキョンシーのような真っ黒な目元で 階段でうずくまっている女の子。しかもその薄気味悪さが増していることは、キミには絶対言えない事実だ。
本当は、こんなに可愛いのに……女の子は化けるって言うけど、あれは化け方が違ったと不謹慎にも脳裏で騒いでいる自分が居る。(ごめんね)
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶