ボクとキミのものがたり
ボクは、洗い物をキミに任せ、机の前に座った。
だが、食器のあたる音に椅子を回してキミを見た。
食器の割れる心配?いやいや違う、キミが居るという実感が心地良かった。
数枚の食器を洗い終えてキミが顔をあげたので、見ていたボクと目が合った。
「終わった」そう言いながら、近づいて来たキミは ボクの頬に掌を当てる。
「お湯使ったから ほかほかでしょ」てっきり冷たいと思っていたボクは、ほっとした。
ボクは、キミを両膝の間に引き寄せた。
ボクの胸元が、キミの背中の温もりを感じようと寄り添う。
ボクの腿は、キミの重さもキミの柔らかなお尻の感触もやっぱり好きだけど、今はそれを感じなくても、何だか幸せな空気を感じている。
後ろからでは見えないキミも笑顔のような気がする。
「あのね」その声は、しんみりとしていた。
「ん?どうした?」キミは「んー」と言ったきり暫く沈黙してしまった。
何を話してくれるのだろうか、期待よりも不安を抱きながらボクはキミの背中を見つめた。
「あのね」ボクは、返事も相づちもできずに、キミが話し始めることを待った。
「あの日は、ありがとうございました。雪の日のことです」
「ああ、うん」
「ありがとう」
「いや、どういたしまして。……何があったの?言いたくなければ無理しなくていいよ」
「うん。でもいつかは、話さないとずっとこのままだもん」
正直、キミが傍に居てくれるのなら キミの事情など聞かなくても良かったけれど、
キミが、言えなかったことを苦しく感じているのなら、ただボクは、キミの話を聞いてあげたいと思った。
ただそれだけ……。そう、それだけなのに 体中が緊張してきた。
とても大切なことだと……ボク自身に言い聞かせ、ボクの緊張がキミの背中に伝わらないようにと願った。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶