ボクとキミのものがたり
リビングに戻って、ボクは間仕切りのキッチンへ入り込んだ。冷蔵庫の中の食材を確かめる。取り置きしたご飯は、さほど多くなく、消費期限に目前セーフの焼きそばがひと袋。
穴あきラップの所為で端っこが干乾びかけた豚肉、キャベツの芯に僅かに残った葉、玉ねぎが何分の一だろうほどの残り、他にも少々。
「よし、ま、いいか」
ボクは、それらを調理し始めた。その様子をキミは、横で見ている。
「にゃん。何かお手伝いある?」とキミが聞くのを笑顔で返し、ボクは手を動かしていた。
「さて、できた。じゃあテーブルに運んで」
キミは、両手に器を持って卓袱台へと運んだ。ボクは、スプーンとグラスとお茶のペットボトルを持って後をついていった。
「どうぞ」
「いただきます」と言ったキミは、スプーンを手にしたまま、繁々と眺めている。
「どうした?嫌い?」
「なに?」とボクの方をちらりとキミが見た。(まさか…これ知らないのかなぁ)
「そばめし」(残り物の整理にいいんだけどなぁ)
「ふぅーん、ソースの香りが美味しそう。いただきまーす」
やっと口に入れてくれたキミの表情に、ボクは少しほっとした。
「食べたことなかった?」
「うん。焼きそばやお好み焼きは食べたことあるよ。でもこれご飯と混ざってるね」
(本当に 初めてだったみたいだね。いつも何を食べているんだろう…)
「うふ…美味しい。お料理上手だね。原稿書いているだけかと思ってた」
ボクも、キミが もくもくと食べているのをあまり見たことがなかった。
「まあ、料理と言えるかどうか。旨けりゃ良かった」
キミが、注ぎ分けてくれたお茶を飲みながら、ボクも自分の作ったそば飯を味わった。
きれいに食べ終えたキミの皿を見て、嬉しくなった。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
「じゃあ、私が洗うね。お仕事していていいよ」
キミは、皿を重ね、グラスを持ってキッチンへと入っていった。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶