ボクとキミのものがたり
雪の降る夜に 傘も持たず、服も髪も濡れて、こんな階段でうずくまっている女子なんて薄気味悪いと思うのが普通だと思っていた。
それなのに「寒いでしょ。温かいものくらい飲ませてやれるよ」なんて言ってくれた。
その言葉に誘われてしまった。ふわっと、身体が軽くなった気がした。その人の濡れた靴の足跡が導くように ワタシは後ろをついていった。
玄関を開け「どうぞ」と言われて、ワタシは、自分のしていることに気がついた。
その人は 部屋に上がって行ったが、ワタシは、せいぜい数足の靴が並くらいの玄関ホールに足を止めたまま立っていた。
そのひとが、玄関に戻って来たとき、手には、中華まんがふたつ持っていた。
見も知らないワタシを部屋に上げ、それを分けてくれた。
とっても 温かかった。食べられなかったお気に入りの洋菓子店のデコレーションケーキよりもきっと美味しかったと思う。ワタシは、ほっと頬が緩んだ。
帰らなきゃという思いと もう少しこの暖かさの中で ワタシの勝手な片思いのカレと居たい思いは、疲れと眠気に押し流された。
ふと、気がつくと カレのダウンジャケットが掛けてあった。カレは、別の部屋で寝ているようだ。ワタシは、そっとその部屋を出た。
外は、もう雪は止んでいた。寒く暗い道だったけれど、ワタシは、少し気持ちが晴れて家へと帰った。
帰った家のリビングは、そのままになっていた。見るとやっぱり悲しかった。
お父様やお母様は、どうしているのかわからなかったけれど、ワタシは、部屋へと入って
冷たいベッドにもぐり込んだ。
少し眠った所為なのか、すぐには 寝付かれなかった。カレのことを考えていた。
(何かワタシにできることはあるかしら)
すぐには、わからない。そうだ。いつも傍にいれば、何かわかるかなって思った。
ワタシが、カレの部屋を訪れる訳は ただそれだけ……。
そう、それだけなの……。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶