ボクとキミのものがたり
寒空から 雪がまた舞い降りてきた。見上げて見ても ずっとずっと遠くから落ちてくる。
ふわふわと見える雪は とても綺麗だった。でも、暗く、星の煌めきもない空は、何処までも深い冷たさにしか見えなかった。
見あげるワタシの瞼に冷たいモノが触れるのに 頬には温かいものが伝った。
お洒落して整えた髪も 綺麗に見せたくてしてみた化粧も どうなっているかなんてことなど気にならなかった。体の芯が冷えてきて 少し痺れた感覚が ワタシに歩くことを促した。
(でも、何処へ行けばいいの?)
浮かんだ処は、まだ行ったことのない場所だった。いつか行ってみたいと、覚えるほど
眺めたアドレス。ある町のその場所は、カレのマンションだった。
カレは、そのときがワタシとの初対面だとずっと思っている。
でも 本当は その少し前に ワタシは知っていた。
ワタシは、進学のことで お父様の会社に行ったとき、お父様のデスクにあった履歴書の中にカレを見つけたのだった。自分でもびっくりするのは、その履歴書に貼付されていた顔写真に目が止まった。いわゆる 一目惚れという感じだった。
こっそり 携帯電話のカメラで 履歴書を写していた。
部屋に入って来たお父様には、書類を見たことは叱られたけれど、画像のことは知られてはいなくて ほっとした。そして、面接の日に何気なく、ほんと、こっそりと見に行った。
本物のカレは、画像よりもおとなしく感じた。背は、思ったよりも 高かった。
ワタシは、ますます 気になってしまった。
だけど、カレは、採用されなかった。しかもそれは、カレだけでは なかった。
後日、お姉さんのように親しくしてくれていた事務員さんに 無理を言って聞きだした話は、とてもショックだった。その事務の女性も 新しい職場を探さなければならないと話してくれた。
――会社が、なくなっちゃうって……
だから、内定をした全てのひとに、書類を添えた履歴書を送り返すことになった。
もう会えないと、思っていたけれど、雪の日の街で 行き先を探すワタシの頭に浮かんだのはカレのアドレスだった。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶