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ボクとキミのものがたり

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もろにボクの胸元にぶつかった。ボクの腕が 反射的にというほど素早く、キミを抱きしめた。
「……は、はずかしい」
フェードインしてくるキミの声を胸元に受け止めながら、聞いた。
「だって、何処まで行くの?」
「何処までお出かけ?」
キミの顔がボクを見あげる。ひさびさに キミの顔をアップで見た。
「そうだったね。キミの歩くところを探検しようって言ったっけ」
(可愛い)そう思ったときには、ボクの鼻の頭は、キミの鼻の頭にくっついてしまった。
とはいえ、公衆の面前で キスまでするのは、躊躇した。
「寒い?鼻が冷たいね」
「大丈夫だよ」
ボクは、キミの手を握り、歩き始めた。この近くに、何度か行った喫茶店があったはずだった。
「猫の探検は、温かいものでも飲んでからにしよう。そういえば、朝から何も飲んでない」
「お菓子は、食べたね」
「うん、食べた。飲み物がなかったね」
他愛も無いひと言ひと言を お互いに見つめながら話しかけた。
とても大切なことだと……感じた。
「あ、此処」
ボクは、木製の扉を引き開けると、珈琲の香りが、暖かく迎えてくれた。
席に座り、店のオーナーの奥さんらしき女性が、オーダーを聞きに来た。
「アメリカン。あ、やっぱりウインナ珈琲」
「お嬢さんは?」
「えっと、オレンジジュース。温かいの できますか?」
「オレンジエードね」
「いえ、あまり甘くしないで欲しいんですけど…無理ならいいです」
「大丈夫ですよ。ホットオレンジジュースね」
「お願いします」
女性が 席から離れてカウンター越しにオーダーを入れた。ボクは、聞いた。
「そんなのが、あるの?レモネードなら聞いたことあるけど」

キミが、ボクの部屋に来た時は、何を飲んでいるのかと、考えたが浮かばなかった。
ボクの部屋にあるのは、冷蔵庫の中のペットボトルのお茶か水。
温かいものといえば、インスタントの珈琲くらい。
何処かで貰った紅茶のティーバッグがあったときに『ティーバックあるよ。飲む?』と聞いて、キミに大笑いされたことがあった。
まったく、あの時は、ことあるごとに ネタにされて いじめてくれたな…などと思い出した。

作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶