ボクとキミのものがたり
【オレンジジュース】
外は、思っていたよりも寒く感じない。
部屋にも差し込んでいた明るい陽射しが、ボクとキミの全身を照らし包む。しかし、雲の流れも速い。青空をもこもこの白い雲が模様を描きながら 通り過ぎていく。
時折、冷たい風が、体の横を通り過ぎていく。
ボクは、冷たい風がボクとキミの間を分けるように通らないようにと、キミと寄り添い歩いた。
いつも外を眺めている窓も、机も 何も書けていない原稿用紙も お気に入りの万年筆も 此処にはない。あるのは、笑顔のキミ。背中でいつも感じていた気配が、今 横にある。
一番傍にあって欲しいと やっと気付いたもの。手でも繋いでおこうかな。
いや、もう少しあとにしよう。
キミの肩が、ボクに触れている。手を繋いだら、離れてしまいそうだ。
ただそれだけ……。そう、それだけなのに ボクの左半身の神経が苛立っている。
「ねえ、どの雲がいい?」
キミの質問は、いつも不意を突かれる。でも、答えないわけにいかない。
ボクは、空を見上げ、一番面白そうな形の雲を見定める。
「あ、あれなんて、いいかな」
「ん?どれ?」
「ほら、あそこの……外灯の三十センチくらい上の」
ボクのジャケットの袖を引っ張ってキミは、口を尖らす。
「目線!」
「目線?」
ふと気付いて ボクは、腰を屈めた。キミの目線は、もっと低い所にあった。
「ちび」
一瞬、ボクを見た。
ボクの真横にあったキミの顔が、すたすたと前を向いて行ってしまった。
ボクは、追いついて謝るべきだろうか……。
いや、何処までそのままでいるのかと、少しにんまりしながら、後を着いて行った。
歩道の切れ間をひとつ、ふたつ、みっつ…(おいおい、そんなにご機嫌を損ねたのかなぁ)
ボクは、足早に追いついて、キミの正面に立った。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶