ボクとキミのものがたり
キミは、ずっと掌を椅子のシートと腿の間に両脇から挟みこんで、俯き加減に 何となく上半身をゆらゆら揺らしていた。
(何を考えているの?何の話をしようか?)
ボクは、声にならない言葉をずっとキミに投げかけている。
「あ、そういえば……」
「はい、お待たせ致しました。ウインナ珈琲とホットオレンジジュースね」
女性が、テーブルにそれらを置くと、ボクの前には、ナッツの小袋。キミの前にはクッキーを置いた。
「どうぞ、ティータイムのおまけね」
キミは、にっこり笑って、頭をぴょこんとさせ、頷いた。(可愛い)
そんな時折見せるキミの仕草を、ボクは、見ていなかったのか。(勿体無かったな…残念)
『飲んでみる?』と、キミが言う前にボクは、ひと口のおねだりをした。
「熱いから、気をつけてね。ふぅーってしてあげようか」
「馬鹿…」
程好い酸味で、なかなか美味しい飲み物だった。
だが、言われたにも関わらず、ボクの上顎の表皮が、ベロンと嫌な感触に変わった。
でもこれは、言わないで置こうと決めた。
「美味しいね。今度、部屋でも飲もう。あとで買って帰ろうか」
「今日は、お出かけだよ」
「あ、そうか。じゃあ今度買っておくよ。いつも飲むもの我慢してたの?」
キミは、首を横に振り、下唇を少し噛んだように笑みを浮かべるだけだった。
ボクは、ナッツを小皿に出すと、ピーナッツを一粒口に入れた。
カリッコリッと小気味良い音と歯ごたえが奥歯を伝わって耳に響いた。
ウインナ珈琲の冷たい生クリームの下の熱い茶褐色の液体を用心して啜る。
これ以上、ベロンをベロンベロンにしない為にも、それは、注意を払わなければいけない。
「タコさん、入ってませんねー」
「え!? あ、あちっ…」
「冗談ですよ。ウインナーは入ってないの?なんて聞きませんから」
(こら!もう遅いぞ)
ボクの舌は、上顎のただれの程度を知るために、緊急調査を始めた。
ベロンベロンではなかったが、ベロベロンくらい被害があったようだ。
「さっきの雲みたい。唇の上の白い髭」
キミは、くすくすと笑う。(なんてヤツだ!)
キミは、掌を温めるようにカップにもう片方の手も添えて、ふぅーとゆっくり飲み始めた。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶