ボクとキミのものがたり
上映。
ボクは、キミが途中で取り出したハンカチをバッグにしまい終わるのを待った。
その実、ボク自身も 上映中に鼻を幾度か啜り上げた。
まさか あの題名から この状態を予想しただろうか?
いやできるわけない。ヤツめ わざと仕組んだか?
手紙にひらがなで書かれた題名は『まひるのじょうじ』。
実際に映写された題名は『まひるとじょうじ』。
キミは、すぐに気づいてボクに耳打ちしてくれたけれど ボクは、よく聞き取れもせず、
スクリーンには映ったのに 思い込みは脳内の思考の修正など考えもしなかったようだ。
「にゃんがにゃん」
たぶんキミは、良かったね。感動しちゃった。ってところかな。実際のボクの感想だ。
主人公の女の子まひるが、出会ったその猫にじょうじと名付け始まった可笑しな共同生活。猫を題材にしたものは 多々あると思うのだが、しゃべらない猫と女の子の行動が どうしてこうも噛みあっているのだろうか。しかもドキュメントなのか…… 演技と云うよりもただ自然にフィルムを回しただけのようなのに 動物と子どもの未知数は 共鳴しあって無限大になるんだな。
試写を終え、ホールに出たところでボクらに声を掛けてきた。
「いやぁ、久し振り。来てくれてサンキューな」
「おう、予告なしに号泣するとこだった」
「そっか。 そちらが カノジョ?」
「まあ、この話の逆バージョンってとこかな」
「にゃん」
「・・・みたいだな」
「にしても 手紙のタイトルに戸惑った」
首を傾げるヤツに そのまま持ってきた封筒内の手紙を見せると ふっと噴出した。
「これかぁ」
ヤツは、引き締めた顔つきになった。
「『の』か『と』どちらがいいかとなって… 同名作品もあるからって『と』にしたんだが、おまえへの手紙につい元題書いちゃったみたいだ」
立ち話で この作品への思いを語る表情は、夢語るあの頃のように輝いて見えた。
「じゃあ ショートフィルム鑑賞会も是非観にきてよ」
握った拳を合わせ、別れた。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶