ボクとキミのものがたり
「お!?」
封筒の文字に目を留めたまま ボクの手が机の引き出しからペーパーナイフを探り出した。
重ね封をしてある隙間にペーパーナイフの先を突っ込み、斜めに引き 斜めに引き 紙を細かく毛羽立出せながら開封した。
仕事柄 紙を扱う。カッターナイフや鋏で切ってしまえば、綺麗な開け口にあるのだろうが、引きちぎるの時の紙の香り、手にかかる負荷、紙の素材感が たまらなく好きだ。
いや、キミほどじゃないけれど…… やっぱり好きだ。
キミはといえば、いつもの卓袱台の前に座っている。
キミが居るのにボクひとりで見ると ちょっぴり不機嫌な仕草を見せる。(可愛いな)
なのに 素知らぬ(見え見えな)素振りが意地らしい。(まったく… いいんだなぁ)
おっとそれよりも 送られてきたものは ショートフィルム鑑賞会のチケット。いわゆる短編映画祭だ。送り主は、学生時代に映研、映画研究会にいたヤツだった。まぶだちだったヤツは、制作会社に勤務する傍ら、自費制作を続けていた。最近は、いくつかのスポンサーもついたと聞いたが地道に夢を追いかけているようだ。
だから まぶだちを切った。お互い甘えのない世界で生きようと誓い合った。
封筒の中には、ショートフィルム鑑賞会のチケットが二枚。そして 相変わらずのミミズくん文字の走り書きの手紙。ミミズみたいなのに読める味わいのある文字だ。(といっておこう)読めば、それに出展する作品を見に来ないかというものだった。
賞のノミネートならば未公開が原則かもしれないが、そこまでの格式ではないようだ。
つらつらと書かれた手紙の中に その作品の題名が書いてあったのだが、一瞬ボクはキミを、キミはボクを見た。
「見たい?」
「にゃん」明らかに イエスの表情。
そして、ボクとキミはその日出かけた。
ボクは、頭の中に悶々としたものが蓄積していた。
キミは、どう思っているのだろうか?
作品を見るまではお互いの意見を言わず、鑑賞しようと提案していた。
暗いホールの客席。疎らに座る観客の中には、後輩や名前すら思い出せない同級生の顔もあったが、ほとんどがヤツとともに制作した仲間と世話になった方たちのように見受けられた。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶