ボクとキミのものがたり
【チケット】
日暮れも早くなった。季節は……
きっとキミならば こういうにちがいない。
《枯れ葉舞い散るこんな日は焼けた匂いが美味しさ誘う 焼き芋の季節…その名は秋。》
話し言葉にすれば「にゃん」で終わるのだろうな。
ボクの書き損じて捨てた原稿用紙の端っこに書かれた文字。それをちぎって栞代わりに読みかけの月刊誌に挿んでいる。
再び開くそのページを楽しみにしながら原稿を書いているボクが居る。
ほとんど纏まった原稿用紙を揃えながら、ボクはカーテンの開いた窓から外を見た。
街路樹の紅葉が綺麗だ。
でもまだキミの期待ほど枯れ葉は落ちていない。そうだよ。まだこれから紅葉のスポットを楽しむ頃じゃないか。その為に ボクはブックマーク、栞を挿んでいるのだ。
今年こそは、ショッピングセンターで買ったほくほく焼き芋じゃなくて 自分で焼いたお芋を食べたいって言ってたね。もちろんボクと一緒にって言ったけど、夢中になったらボクも芋も同じなんだろうな。
ははは。って笑っていられないけどさ。怒ってみるほどでもないし、キミの嬉しい笑顔が見られるなら それでボクは『ごちそうさま』ってなるに決まってる。
玄関のチャイムが鳴った。
そういえば、このチャイムが鳴るなんて とんと久し振りだ。
キミだってわかってる。なのに どうして合鍵で入ってこないのかと暫く待ってみた。
もう一度、玄関のチャイムが鳴った。
何かあって入って来られないのか? そう思うと同時にボクは椅子から立ち上がり、玄関へと小走りで向かった。
「どうしたの?」
外のキミを気遣いながらも 勢いよく開けたドアの横で封筒を手にしたキミが立っていた。
「郵便でぇす」
え? きっとボクは 鳩に豆鉄砲よりも間抜け面をしているかもしれない。
「う、うん」
「お邪魔するにゃん」とボクの脇を擦り抜けていった。
あっけにぽかん。そう、自身の状態を表すならばこんな言葉がお似合いだ。
リビングでキミは、その封筒を持ったまま立っていた。
「食べられるかな?」
まさかキミはヤギか… という発想はもう既に使った。
この時期、仕事の関わりで飲食の招待券や割引券も郵送されてくることがあった。お一人様がほとんどだが、気の利いたカップル招待に キミを誘ったこともあった。まあその時は、キミを頼りにしてマナーなどを真似したり、カップルでないと気恥ずかしい感じの場所だったりしたからだ。
「さあ どうかな?」
キミの手から封筒をするりと抜き取り、送り主を確認した。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶