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ボクとキミのものがたり

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「よし、できた」
まだキミは来ないが、ボクは書き上げた原稿用紙の縁を二、三度机に当て揃えるとクラフト封筒の中に入れ 机の端に置いた。万年筆のキャップをはめ、机の中に片付けた。
そして、キミが来るのを待ちながら、簡易モップで部屋を掃除し始めた。動くと汗が噴き出してくるようだ。窓を開けたいけれど、夏の風に塵、埃たちが舞い踊り出すのもあまり嬉しくない。急げっ急げっと呪文のように念じながら、部屋を巡る。そういうときに限って 気になるところが見えてくる。ボクは お気に入りのハンディモップを持ち出し独楽鼠。チュウー。キミが来たら しちゃうんだろうな。
ただ待つばかりのボクは、仕事の時より思考がまわる。
(まだかなぁ)やっぱり思うことは これに治まるのだ。

窓を全開に開け放つと 大きくカーテンが揺れた。気持ち良い風が入ってきた。こもっていた暑さが 爽やかな暑さと入れ替わった気がした。どちらにしても暑いのだけれど 新鮮な気がした。
もう一度カーテンが 大きく揺れた。
玄関が開いたのだ。

待っていたのに リビングに顔を覗かせるキミのことが見たい。だから玄関には 迎えに出なかった。靴を脱ぐ気配とキミのあの声がボクの所へ伝わってくる。
「お は にゃん」
「どうぞ」
つとめて冷静 普通に返事をかけるボクだったが、にやけた顔と寝癖髪を押さえていた。
キミの足音の代わりに カシュカシュと擦れる音。
部屋に入ってきたキミは、ボクの待っていた笑顔だった。きっとキミはそんなボクのことをお見通しなんだろうね。そこで もひとつ微笑むのだ。悔しいけど 可愛い。
音の出どころは キミがぶら下げてきたビニールのショッピング袋。買い物の時に貰う袋だ。
「にゃん」
キミが、その袋から摘まんで覗かせたのは とうもろこし?
「どうしたの、それ?」と訊いてはいけない。キミの説明を待とう。

作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶