ボクとキミのものがたり
「朝摘みのとうもろこしにゃん。畑のおばさんが『採りにいらっしゃい』って言ったの」
「言ったのって何処の畑のおばさん?」
キミは、何本入っているのか、持ち手が重さで細くなり肘の内側に食い込んでいるままで バッグの中の化粧ポーチにつけられたキーホルダーを引っ張り出した。
そのキーホルダーは、アクリル樹脂の中に花弁が閉じ込められているものだった。
黄色いその花弁は、あの夏を思い出させるひまわりの花弁。花そのものの大きさはないけれど押し花のように作り変え、小さなひまわりの花の形をしていた。
「ひまわり畑のおばさんの畑のとうもろこし」
ボクの特技になりつつあるキミの文法無視の言葉使いの理解。いつものことだ。
簡略して説明するとすれば 以前、といっても季節は一巡しただろうか…… ボクが散歩中に 近くで畑仕事をされているご夫婦からひまわりの花を貰った。背の高い 木のような幹の向日葵ではなく、小夏という鉢植えでも育つ小さなひまわり。このときのキミのことは 今思い出しても小鼻がひくひくしそうな面白い出来事だった。
キミは、ひまわりが欲しいと持ち帰って部屋に飾ってくれたんだったね。
でも ボクの知らないことがあったんだ。そのひまわりの花のお礼に キミはそのご夫婦に手作りのお菓子を差し上げたらしい。そして、キミが持っているキーホルダーと同じようなものをおばさんにも作ってあげたそうだ。
きっと喜ばれただろうね。
その後、姿を見つけると挨拶を交わしたりするらしく、この季節に実ったとうもろこしをくださったらしい。しかも 今朝の朝露まで葉に残っているようなもぎたて。
キミが もいだ実はすぐにわかった。茎が不器用にちぎれていたから。
作品名:ボクとキミのものがたり 作家名:甜茶