㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第2話 ㊙ ビーナスの森
2話 ツユスケ
さてさて、ここでもう少し露払いの助、簡略名『ツユスケ』を紹介しておきましょう。
根暗出る樽渓谷のネアンデルタール人、ユユリリララさんから「『㊙ ビーナスの森』は磁石が使えないので道案内役が必要でしょ、だったら露払いの助を連れて行きなさい」と薦められました。ヤツは少し生意気、かつすぐにチップを要求するので嫌でしたが、そこは大人の対応で従ったわけです。
が、ですよ、その帰途奈那ちゃんもヤッチンもアイツと暮らすのは嫌だと主張されまして、私のオンボロアパートに連れて帰り面倒みることとなりました。
こうして共に1週間過ごしたわけですが、わかったのですよ、ヤツはかなり優秀だと。さすがホモ・サピエンスの1千年先を行く技術で作られたAIロボットでした。
まずエネルギーは核融合バッテリーが内蔵されており、充電はまったく不要。また超小型量子コンピューターが体内で常時稼働。しかもそれは根暗出る樽渓谷の地下ワールド第7層の超高速コンンピューターに連結しています。そのため必要とする情報にアクセス出来、瞬時にあらゆる問題の解を得ることが出来るのですよ。まさにビックリポン、ポン!
ただですね、このロボットには難点がありまして、大変庶民的ではあるのですが、ヤッチンと私には実に生意気。その一方で悔しいですが、奈那さんだけには優しいのですよ。
そしてコイツがいつも口ずさむ歌がなぜか『ソーラン節』。
「♫ 男度胸なら『五尺』のからだ 波に上 チョイ ♫ ヤサエーエンヤーンサーノドッコイショ ♫ ~~~ ♫」
これを歌った後の講釈が「私の背丈はその五尺だよ、それは151.515センチメートルでんがな」と。これ何回聞かされたことでしょうか。
あまりにもしつこいし、鬱陶しい。もういい加減にしろと怒鳴り付けるところをぐっと堪(こら)えて訊いてやりましたよ。「なぜそんなに気に入ってんだよ、5尺を?」と。
すると得意満面に、「えっ、ヨッチン、知らないのか? 一尺は『30.2302』センチメートル、だから5尺は『151.515』センチメートル、さらに5を掛けたら『757.575」でんがな、これがホモ・サピエンス史上いっちゃんオモロイ数列やで、メッチャオモロー!って思わんか、えっ、思わないって、……、信じられな~い!」と。
こんな思考ギャップ、つまり進化に差があると私は気付きました。そして後ずさりしながら、「1千年先のAIロボットはこんな無味乾燥でアホみたいな数字の並びが大好物なんだ、へんちくりんなヤツだ」と呟くしかなかったのです。
その一方で確信した次第であります、こいつは完全に……、『無害』だと。
作品名:㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第2話 ㊙ ビーナスの森 作家名:鮎風 遊