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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Savage Reflection

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 他の二人がどういう経緯で集められたのかも知らないし、反対側に分かれたチームがどうなっているのかも、よく分からない。フルオートの銃声が鳴り響いてから、まだ一分も経っていなかった。それでも、仕事をこなして生き延びさえできれば、明け方には一年楽に暮らせるぐらいの報酬が手に入る。少なくとも、自分が一番後ろを歩いている今の状況は、すぐに逃げ出せるし悪くない位置関係に思えた。チョウは、並ぶ建物の窓にベネリM1の銃口をまんべんなく振り向けて、動いたものは何でも撃ち抜くつもりで息を殺した。先の二人が角から通りを覗き込んで振り返ったとき、チョウは最後尾を受け持つ縁の下の力持ちよろしく、うなずいた。順調だ。指示役の三人も階段を下りきったところで、自分たちとは違う方向に進んでいった。目指す建物は、数十メートル先に見えている。チョウは足を踏み出そうとしたとき、全身の力を瞬時に失って地面に崩れ、そのまま死んだ。白猫はチョウの耳からアイスピックを抜き取ると、ベネリM1をスリングから切り離して、まだ気づいていないジャージの二人に近寄り、至近距離からバックショットを一発ずつ撃ち込んだ。二人は即死し、トラックにはね飛ばされたように地面に倒れた。白猫はベネリM1を捨てると商店の窓から中へ忍び込み、静かに階段を上がった。
 
 林は角から路地を覗き込んで、体をほとんど真っ二つに砕かれたジャージ二人の姿を目に留めた。雷のような、散弾銃の銃声。ベネリM1を持っていた男の顔が浮かんだが、撃ったのはおそらく白猫だ。だとすれば、その男もすでに死んでいるだろう。陳は耳を澄ませて商店の壁に張り付くと、小声で林と鹿野を呼び寄せた。
「こっちだ」
 鹿野は体をかがめて、素早く移動した。陳は壁から離れないように背中をぴったりつけたまま、上を指差した。
「誰か、二階にいる」
 林は、全てを自分の目で確かめないと気が済まないように、反対方向へ一歩足を進めた。街灯の光を受けて影が伸びたとき、赤色の光線が立て続けに体を貫いた。鹿野は、二階から撃ち下ろされたライフル弾で蜂の巣にされた林を見て体を硬直させたが、陳がその肩を掴んだ。 
「今だ。今!」
 陳は、鹿野を連れて銃声に紛れながら商店の中へ入り込むと、静かに階段を駆け上がった。銃声が止み、鹿野は陳の後を続いて真っ暗な二階の廊下へ足を踏み出した。陳はマリーンマグナムを構えたまま、目線を動かした。左右に部屋があるが、林を撃った弾が放たれたのは、おそらく右手にある小部屋からだ。鹿野は思い出したようにルガーSP101を抜くと、お守りのように右手で握りしめた。陳が小部屋の前まで来たとき、鹿野は対角側に移動しようとして、地面に据え付けられた埃だらけの消火器に足を引っかけた。体のバランスを崩しかけて小部屋と反対側のドアにしがみついたとき、陳はそのドアを咄嗟に開いて鹿野の体を押し込み、叫んだ。
「伏せろ!」
 陳がドアを蹴るように閉めて床に身を投げ出したとき、銃声が鳴り響いて赤色の光線が立て続けに壁を貫いた。血を吸うのを待ちきれないようにばら撒かれた5.45ミリ弾が鹿野と陳の頭上を縫うように通り抜けて、ほとんど間を空けることなく、拳銃弾の連射が続いた。それが途絶えるのと同時に陳はドアを開けてマリーンマグナムの銃口を突き出し、三発を部屋に向けて撃ち込んだ。何かを落としたような音が響き、陳は体を引いて立ち上がると、一旦ドアを閉めて深呼吸をした。そして、鹿野を手で制止してから再び廊下に足を踏み出した。途中から拳銃弾に切り替わったということは、恐らくライフルの弾が尽きたのだろう。
「バイマオ!」
 陳は名前を呼ぶと、マリーンマグナムの銃口を小部屋に向けたまま散弾を装填していった。三発を装填し終えて、深呼吸をしてから小部屋のドアを蹴り開けたとき、デューティベルトが床に落ちていることに気づいた。マガジンポーチと弾倉が潰れているが、血はついていない。少なくとも、一発は当たった。陳は窓から外を見下ろした。これだけ静かなら、仕切り直すつもりだろう。白猫は頭の回転が速い。こういうときは間合いを取って、もう一度殺しに来る。
 鹿野は半開きになったドアの隙間から、陳が再び姿を現すのを待ち続けた。小部屋のドアが大きく開いて、マリーンマグナムを持った陳が姿を現したとき、自分がつまずいた消火器が視界の隅を横切るのが見えた。
 白猫は消火器を大きく振り、陳の左膝を粉々に叩き折った。そして、その勢いを殺すことなく頭の上まで消火器を振り上げると、バランスを崩してその場に倒れた陳の顔面に打ち下ろした。消火器の底がまっすぐ貫通するように顔の中心にめりこみ、体が宙に浮くように跳ねた。白猫は髪から返り血を払うと、陳が死んだことを確認してから、駆け足で階段を下りた。
 鹿野は、自分の目が見た光景を信じられず、這うように廊下へ出ると、反対方向の階段へ走った。白猫が銃を撃つ姿は、今までに何度も見た。しかし、人を殺す姿を直接見たことはなかった。その容赦の無さと、速さ。あの細い体からどうやってあんな力を絞り出すのか、見当もつかない。鹿野は商店の窓から転げるように出て、体を起こした。
「鹿野くん」
 名前を呼ばれて凍り付き、鹿野は振り返った。すぐ後ろに立つ白猫は、右手にグロック17を持ったまま口角を上げた。
「車に残らなかったの?」
「忘れる」
 鹿野は、熱病に浮かされたように言った。白猫は目を大きく開いた。
「え?」
「君のことは忘れる。この町も、全部。だから、頼む」
 自分の言葉ではないように、すらすらと口が動いた。鹿野は白猫の反応を待ちながら、SP101を持つ右手に力を込めた。
 白猫は、鼻の奥がつねられたように熱くなるのを感じて、唇を結んだ。鹿野の全身に視線を走らせて、リボルバーをお守りのように持つ右手が真っ白に硬直していることに気づいたとき、今の自分がどのように見られているかということを、理解した。
 わたしは、恐れられている。
 でも、少し話すだけで普段通りのわたしだと分かるはずだ。それなのに、なぜ忘れようとするのだろう。あなたは、わたしのことが好きだと言っていたのに。
「どうして……」
 白猫が目に浮かんだ涙に気を取られて瞬きをしたとき、鹿野は銃を振り上げた。白猫はグロック17を訓練の通りに構えると、鹿野が引き金にかけた指へ力を込めるより先に、その頭を撃ち抜いた。
 再び空気が静まり返り、白猫は真山が籠城しているはずの建物を振り返った。
 逃げないって、思わなかったのかな。これだけ恩に感じていたのに、実は何も伝わっていなかったのかも。これだと、全てが振り出しに戻ったのと同じだ。自分はまだ、あの檻の中にいる。だとしたら、やり残したことがひとつだけあった。
 白猫はグロック17を持ち上げると、銃口をこめかみに当てて引き金を引いた。
 パチンと乾いた音が鳴っただけで景色は真っ暗にならず、白猫は訓練の通りにスライドを引いた。薬室から飛び出した薬莢が壁に跳ね返って地面に落ち、靴に寄り添うように転がってきたのを見て、思わず目を伏せた。ダミーカートだ。
 この銃はもはや、持ち主を殺す役にも立たない。
作品名:Savage Reflection 作家名:オオサカタロウ