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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Savage Reflection

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 香織は、笹川の方を向いた。後部座席で横になって寝息を立てている白猫の顔をちらりと見てから、続けた。
「あのさ、本当に誰か教えてくれないの?」
「言ったら、お前は車で待とうとしない」
 笹川は、平静を失わないように呼吸をコントロールしながら言った。香織は、白猫から聞いたことを自分から口に出すことはせず、笹川の目をじっと見つめた。
「夫婦って、こんなもん? 信用はないんだ?」
「信用してるよ。そうじゃなかったら、勝手に終わらせてる」
 笹川はショルダーホルスターからグロック19を抜くと、センターコンソールに置いた。香織はその行動を真似るように、ベルトからM36を引っ張り抜いた。そのぎこちない手つきに、笹川は口角を上げた。
「銃は得意分野じゃないだろ」
「うん。でも、馬鹿にしないでよ」
 香織はそう言ってから、気づいた。それでも笹川は、この場所に連れてくることを選んだのだと。足手まといになるのは、間違いないのに。
「分かった、何があっても車に残る。約束する」
 香織が言うと、笹川は小さく息をついてから、満足したようにうなずいた。
「出る前に、白猫と話してたな。もう、知ってるんだろ?」
 香織は少しだけ間を空けてから、うなずいた。
「信じがたいけどね。どうして今なのって感じもする」
「原因は、おれ達全員にある。組織として、成長しすぎたんだ」
 笹川は香織の方を向くと、誇らしげな表情を打ち消しながら、続けた。
「おれ達を壊滅させることが、真山の成果になる。おとり捜査のために集められた下っ端が、手柄として相応しいぐらいに偉くなったってことだよ。光栄なことだ。盗聴してる間、あいつはずっとそんな話をしてた」
「相手は誰?」
 香織が訊くと、笹川は肩をすくめた。
「日本語を話してたけど、ほとんど聞き役で名乗りもしなかったよ」
 VWバナゴンのエンジンが停まり、ジャージ三人組の運転手がドアを開けた。雑木林で半分以上隠れているが、百メートルほど離れた反対側には緑色のフォードトランジットが停まっているのが見える。香織は姿勢を正すと、笹川に言った。
「もう時間か。三日間、二人でずっと監視してたんだよね。他に、何を見たの?」
「色々と。あいつは高級住宅街にもうひとつ家を持ってた」
 バナゴンのスライドドアが開き、後部座席に座っていた男が外に足を出したとき、香織は言った。
「そっちが本当の家ってこと?」
「そうだな。中には、妻と娘がいた」
 笹川が言ったとき、香織は凍り付いてその目を白猫に向けた。
 起きている。
 白猫は、ヘッドレストの隙間からアイスピックを笹川のうなじに突き刺して、即死させた。香織がM36に触れるよりも先に、右手に持ったグロック17を顔の高さまで持ち上げ、引き金を引いた。短機関銃のようなサイクルで飛び出した五発の9ミリ弾は、香織の下顎から右目を立て続けに引き裂き、貫通した一発がフロントガラスに蜘蛛の巣状のヒビを作った。白猫はAKS74Uを持ち上げてM5のドアを蹴り開け、地面に足をつけて立ち上がるのと同時に、バナゴンから降りていた運転手ともうひとりに銃口を向けた。トレーサー弾が光線のような軌跡を残しながら二人の体を粉々に砕き、残りのひとりは反対側のドアから転げ落ちるように飛び出して地面に転がったが、白猫はその場に伏せると、車体の底越しにその頭へ一連射を放った。
 銃声から解放されて無音に戻った空間で、白猫はAKS74Uの弾倉を入れ替えた。延長された人生の中で、唯一、はっきりと理解していること。真山さんは、命の恩人だ。
 その娘を、自分の二の舞にさせるわけはいかない。
 白猫はトランクからデューティベルトを取り出して腰に巻くと、M5の後部座席からグロック17を回収してホルスターに収めた。笹川の首筋からアイスピックを引き抜いて呼吸を整えると、市街地へ続く階段を駆け下り始めた。
 
 林は、木々の隙間を縫うように走った赤褐色の光線を見逃さなかった。その軌跡は、トレーサー弾のものだ。一発の狙いが逸れて、標的に当たることなく抜けていったのだろう。だとしたら、今すぐに動かなければならない。セントラのドアを開けながら、林は顎をしゃくった。
「シカ、行くぞ」
「おれもですか?」
 鹿野が肩をすくめながら言うと、林はダッシュボードを力任せに叩いた。
「あたりめーだ、半分に減ったぞ」
 その短い言い回しは、M5とバナゴンに乗っていた反対側の『チーム』が全滅したということを意味する。その淡々とした死刑宣告のような言葉に、鹿野は足から血の気が引いていくのを感じた。
「死んだんですか?」
 鹿野が言うと、すでに助手席から降りた林の代わりに、陳が後部座席から答えた。
「そう思っとけ」
 マリーンマグナムを傘のように車の外へ突き出してから、陳は大儀そうに外へ出た。鹿野はエンジンを止めると、運転席から降りた。
「あの、笹川夫婦は……」
 誰にともなく言うと、右手にM645を持った林が振り返った。
「死んだんじゃない?」
 陳がマリーンマグナムの先台を操作して一発目を装填し、小さく息をついた。
「そんなに気になるなら、見に行くか? 死ぬぞお前」
 鹿野は首を横に振った。トランジットからぞろぞろと降りてきたジャージ姿の三人は、顔を見合わせながら命令を待っている。林が大きな身振りで指示を出し、三人は市街地に繋がる階段を慌てて下りていった。
「ちょっと離れて、おれらもいく」
 林はそう言って階段の最上段に立ち、動きを見つめた。あのトレーサー弾は、間違いなく白猫の銃だ。あの檻の中で、殺しておくべきだった。
 
 普段着のジャージに、最新型の銃。何とも不思議な組み合わせだが、チョウは突然舞い降りた高収入の仕事に浮足立っていた。ほとんど警察官のように高圧的な『指示役』に背中を押されたって、構わない。話しているのが日本語だというのは分かったが、内容は全く分からなかった。
 この仕事は、分からないことだらけだ。
作品名:Savage Reflection 作家名:オオサカタロウ