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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Savage Reflection

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 白猫は小さく息をつくと、振り返るのと同時にグロック17を力任せに投げた。そして、空っぽになった手で首からかけたネックレスに触れた。結局、これを頼ることになるなんて。やはり、真山さんは命の恩人だ。
 でも、こんな場所にいたって、もう意味はない。
    

二〇〇二年 十二月 神戸市

 車のハンドルが、右についている。助手席が左側にあるのは、座っていて変な感じだった。手元の運転免許証には、船の中で撮られた顔写真が貼り付けられていて、その表情は相変わらずぎこちない。
「下の名前は、なんて読むんですか?」
「さや」
 運転席に座る男が、ぶっきらぼうに言った。これからは『佐藤沙耶』が自分の名前になる。読み方は分かったが、慣れるまでには時間がかかりそうだった。ネックレスに書かれた通りの道を辿ってここまで来たが、本当に合っているのだろうか。運転席の男はサイドブレーキを下ろすと、明けかけた群青色の空をじっと見つめたまま、呟くように言った。
「申し遅れましたが、私は岩村と言います」
「佐藤沙耶です」
 免許証の通りに読み上げると、岩村は笑った。
「練習か。ええ心がけやね」
 白のアルテッツァは滑るように走り出し、佐藤は背もたれに体を浅く預けた。岩村はラジオのスイッチを押すと、ボリュームを上げた。朝から事件のニュースが続き、佐藤はその内容に顔をしかめた。岩村は報道されている全ての責任を負うように肩をすくめると、言った。
「えげつないやろ。誰が誰を殺したやら、騙されたやら。こういうのは氷山の一角や。知らんとこで、がんじがらめになっとる奴が山ほどおる」
 もはや、今の自分と地続きとは思えなかったが、思い起こせば自分の父がそうだった。佐藤はニュースに耳を澄ませながら、言った。
「これから、何が起きるんですか?」
 岩村は首を傾げながら、笑った。
「おもろい質問やな。ええことも、悪いことも起きる。人間のやることなんか、どっちかしかあらへん」
 その言葉に続きがあることを期待した佐藤が顔を向けると、岩村は信号待ちでアルテッツァを停車させてから、初めて目を合わせた。
「君は、そういう連中が頼る、最後の一手になれ」
 佐藤はうなずいた。かつて、父が頼りたかったに違いない切り札。それが自分であり、体を動かす頭脳であり、人を瞬時に殺すことができるこの手だ。
 じっと休ませている理由はない。
 この心臓が自分を生かし続けるように、夜ですら、もうすぐ明けようとしている。
作品名:Savage Reflection 作家名:オオサカタロウ