小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

Savage Reflection

INDEX|11ページ/14ページ|

次のページ前のページ
 

   
 香織はS&WM36をベルトに挟むと、重量バランスが崩れたように体を傾けた。
「小さいのに、重いな」
「車に乗ったら、分からなくなる。すぐに抜けるようにしといてくれ」
 笹川は早口で言うと、銃身を切り詰めたモスバーグM590にバックショットを五発装填して、BMWM5のトランクを開けた。すでにライフルや散弾銃で満たされている荷室にモスバーグを入れると、続けた。
「外注六人は三人ずつバンに分乗して、片方は鹿野と同じルートに行く。二カ所から挟むってことだ」
 香織は気圧されたように顔を引くと、スポーツバッグとデューティベルトを持って上がってきた白猫の方を向いた。
「すごい装備だね」
「何があるか、分からないので」
 白猫は表情を変えることなく言うと、M5の後部座席に荷物を置いた。笹川は肩をすくめながらトランクを閉めて、運転席に乗り込んだ。香織は慣れない拳銃を腰に挿したまま、ため息をついた。
「マジ、みんな何なの? 知らないの、わたしだけ?」
 白猫は後部座席に乗り込むことなくドアを閉めると、笹川に言った。
「あと二本、マガジン持ってきます」
 そう言って訓練場に下りていく姿を見た香織は、トランクにもたれかかった。白猫がそうやって忘れ物を取りに行くのは、見たことがない。だとしたら、何か言いたいことがある。それはほとんど、直感のようなものだった。弾倉を二本掴んで上がってきた白猫は、腰のベルトにつけられた空のポーチに押し込んでから、小声で言った。
「笹川さんと三日間、盗聴用のバンで移動していました」
「その結果がこれでしょ。どうするの? 上役でも殺すつもり?」
 M5の排気音が静かに響く中、白猫は首を横に振った。
「真山さんです」
 香織は目を大きく開いて、口をぽかんと開けた。白猫はほとんど表情が消えて機械のように冷え切った表情で、続けた。
「上役の組織を内部から崩壊させるのが、あの人の仕事なんです。公安警察のために働いてるって」
 香織が呆気にとられたまま何も言い返せないでいると、白猫は後部座席のドアを開けて、するりと乗り込んだ。香織は、いつまでも外にいるわけにもいかず、助手席に乗り込んで笹川の言葉を待った。いつもなら『何の話をしてたんだ?』と言うはずだ。もしかしたら地獄耳で、多少は内容を聞き取っている可能性だってある。しかし笹川は何も言うことなく、M5を発進させた。
 幹線道路を抜けて山道に入り、ベージュのVWバナゴンと合流したとき、笹川は路肩にM5を寄せて、外に出るとトランクを開けた。バナゴンから降りてきたジャージ姿のひとりが頭を下げながらトランクの中身を見て、さらに頭を下げた。白猫は体を起こして、スモークがかかったリアウィンドウ越しに『取引』を眺めた。香織はミラーで様子を確認しながら、小さく息をついた。
「大がかりだな」
「林さんと陳さんは、警察が近寄らないように手を回したって、言ってました。あの、香織さん」
 名前を呼ばれて、香織は振り向いた。
「なあに?」
「本当に、一緒に来るんですか? 銃を使ったことは、あまりないですよね」
「呼ばれたら、仕方がないよ。まあ、見届けるぐらいなら」
 香織がそう言うと、白猫は口を開きかけたが、声になる前に笹川が運転席に戻ってきて、そのまま押し黙った。笹川はM5を発進させながら、バックミラーでバナゴンの姿を確認して笑った。
「素人だけど、弾避けにはなるだろ」
「ひどいなあ」
 香織は呟くと、シートに深くもたれた。白猫はスポーツバッグのファスナーを開くと、AKS74Uのストックを展開させた。笹川はバックミラー越しに、いつも仕事の前に言うのと同じ口調で、白猫に言った。
「しばらくかかるから、今の内に寝ておけよ」
   
 鹿野は、ハンドルを握る手に滲み出す汗を振り払うように、掌を開いた。
「つまり、裏切り者だったってことですか。最初から?」
「そう。マーさんは、もっとでっかい組織を潰すために、末端の組織を作ったってことだ。それがおれ達。まったく、手がこんでるよ」
 林が苦々しげに言うと、陳は後部座席で肩をすくめた。
「それにしては、時間がかかりすぎ。この手の工作は、長くても二年ぐらいだろ」
 ベルトに挟んだルガーSP101が突然重みを増したように感じて、鹿野はシートの背もたれから体を離した。ここ数日の身内狩りは、笹川の頭のネジが外れたからではなく、本当に裏切り者が内部にいたからだった。
 だとすれば、始末をつけなければならない。それは理解できているが、そこから先が全く見えない。裏切り者は我らがボスでした。それを、今からコテンパンに殺すとして。その後は? 解散したら、あのコインランドリーのような居場所はもう存在しない。また路上強盗をして、誰かの目に留まるのを待たなければならないのか。ひとつ安心なのは、林と陳が自分にも分かるように、日本語で話してくれているということ。現地の言葉もある程度は分かるが、早口で話されたらついていけない。つまり二人からすれば、自分はまだ仲間として認められている。
 林が見透かしたように、鹿野の肩をポンと叩いた。
「ここで捕まるよりは、日本まで戻って、そっちで捕まった方がいいよ」
 結局、終点はそこだ。鹿野は、緑色のフォードトランジットが路肩に停まっているのを見て、スピードを落とした。ジャージを着た三人組が中に座っている。
 この大きな花火を打ち上げ終えたら、あとは下り坂だ。
 
 あまり見かけないクリーニング屋のバン。今思えば、あれが盗聴用の車だったに違いない。電話で話していた内容は、おそらく一字一句漏らさず伝わっているだろうが、それで構わない。四年間に渡る仕事は、失敗だったのだから。
 結局、上役を一網打尽にするチャンスは、たった一回だけだった。真山はPA7を壁に立てかけると、拳を固めた。二年前の、全員が一堂に会するタイミング。あの時点で『上司』へ連絡を入れれば、その日に全てが終わっていた。それを棒に振ったのは、白猫の復讐を優先したからだ。後悔は、全くなかった。物事には順番があって、自分にとっての最優先事項は、最初から決まっていた。
 学生証に印刷された、緊張した表情で写るひとりの少女。人生を、その手に返したかった。それは復讐を終えてからでも間に合うと思っていたが、甘かった。その柔らかな頭は、新しくできた仲間をいつの間にか家族のように捉えていて、結果的に白猫は最も忠実な構成員になってしまった。
 だから、今回も先頭で入ってくるだろう。
 クレイモア対人地雷は、建物の三つの入口をカバーしている。中で出番を待つ無数のボールベアリングは、引き裂く相手を選り好みしない。特に先頭は確実に死ぬ。真山は、二階の窓から見える景色の奥で車のヘッドライトが微かに光ったことに気づき、ブラインドを完全に下ろした。
 頼むから、逃げていてくれ。
   
 VWバナゴンが後ろでのろのろと停まり、慣れない手つきでバルメM82を扱っている助手席の男をミラー越しに見た笹川は、小さくため息をついた。
「香織、お前は車にいろ。まずは偵察で、外注を三人ずつ送り込む」
「待ってよ」
作品名:Savage Reflection 作家名:オオサカタロウ