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オオサカタロウ
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novelistID. 20912
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Savage Reflection

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 真山が言うと、白猫はそれも納得しているようにうなずいた。そして、ナトリウム灯に半分照らされた顔を前に戻した。その目は、港自体に関心がなくなったように、フロントウィンドウ越しに広がる景色の一点を見つめていた。
「父がここに来たのは、仕事で命を狙われたからです」
 白猫は淡々と言い、真山は静かに唸るエンジン音を遮るだけの言葉を見つけられず、ハンドルを握り直した。聞かなくても想像はつくが、今は本人の言葉が必要だ。
「母親は、どうしてる?」
「わたしが生まれてすぐ、離婚してます」
 白猫が言い、その続きは予測できた。頼れる人間は国内にいない。つまり、この道をそのまま進むのが、持ち合わせている唯一の選択肢だということになる。真山は広い幹線道路の先に見える街の灯りを見つめながら、言った。
「聞きたくないだろうが、聞いてくれ」
 白猫は前を向いたまま、うなずいた。
「おれ達のような人間は、五年以内に撃たれるか、警察に捕まる。何がどう転んでも、必ずそうなる。笹川夫婦は、おそらく撃たれるだろう。陳と林は、同業者に手錠をかけられる。断ち切るなら、今しかないんだ」
 真山が言うと、白猫は目を伏せた。
「父は、警察も頼れませんでした。おそらく、悪い人間のひとりだったからです」
 か細い声が掠れたように消えたとき、ラジエーターのファンが回り出し、直列六気筒のエンジンが回転を上げた。真山が次に言う言葉を考えていると、白猫は真山の方を向いて、目をじっと見据えた。
「面接ですよね?」
 それ以上説得する言葉が見つからず、真山はうなずいた。
「そんなつもりはなかったが、合格だよ。おれから付け足す条件は、ひとつだけだ」
 白猫が姿勢を正したのを見て、真山はサイドブレーキを下ろしながら続けた。
「後ろを振り向かずに出て行く方法を教えるから、それを頭に叩き込め。誰を頼って、どこに行けばいいか。その約束ができないなら、ここで終わりだ」
 白猫はうなずいた。
「よろしくお願いします。わたしも、質問したいです」
 真山はM3を発進させながら、助手席に目を向けた。
「今さら、かしこまることもないだろ」
「この後、何があるんですか? このまま生きていったとして」
 白猫がたどたどしい口調で言い、真山は前に向き直って笑った。
「色んなことがあるよ。いいことも、悪いことも。普通はそういうのを、人生って呼ぶ。例えば、真似をしたい髪型が出てきたり、好きな音楽が見つかったり。彼氏ができたり、ケンカ別れしたりな」
 最後の言葉を聞いた白猫は、景色のどこかにヒントを探すように、目を大きく開いたままくすりと笑った。


二〇〇二年 十二月 台北市

 好きだから付き合ってほしいと言ったとき、戻ってきたばかりの白猫は驚いていた。鹿野は白猫が咄嗟に答えた『うん』がどういう意味を持つのか、数時間が経った今も分からないままでいた。それだけじゃなく、分からないことだらけだ。リュックサックを棚に戻している白猫の顔は真っ白で、殻に覆われているようだったし、笹川は相変わらずに見えたが、香織だけはその変化に気づいたようで、しきりに話しかけていた。そして、そんな笹川から届いた指令は、短く冷たかった。
『銃の用意をしてろ』
 だからその通りにして、ヨウが管理していた武器庫を空っぽにする勢いで、銃を揃えている。グリースガンとバルメM82が二挺ずつ、ベネリM1散弾銃が一挺。
 香織が目を丸くしたのは、笹川が『外注で六人来る』と言ったときだった。言うまでもなく、これまでの身内狩りとは規模が違う。鹿野は銃にスリングを巻き終えて、訓練用のレンジに下りた。笹川と二人で出かけた三日間で、何があったのか。無理に聞き出そうとは思わないが、ヒントぐらいは飛び出すかもしれない。
 白猫は傷だらけのグロック17を整備しており、鹿野に気づくと顔を上げた。
「ずっと籠ってるね。それ持ってくの?」
 鹿野が言うと、白猫はうなずいた。
「わたしの銃は、これだから」
 短い会話が一時停止ボタンを押したように止まり、白猫はデューティベルトのポーチに弾倉を挿しこんでいった。隙間を埋めるように次々と押し込んでいる姿を見て、鹿野は目を丸く開いた。
「四本も使う? しかも、ベルトごとかよ」
「うん。ライフルも持ってく」
 白猫はそう言うと、サプレッサーのついていないAKS74Uに目を向けた。隅々まで整備されて、鈍く光を跳ね返している。トレーサー弾が装填された三本の弾倉も傍らに用意してあり、準備は完全に整っていた。鹿野は手ぶらで下りてきた自分の格好に不安を感じて、ポケットに手を突っ込んだ。白猫は透視するように鹿野の顔をじっと見つめると、言った。
「いつも通り、運転手だよね?」
「おれ? そうだな。申し訳ないけど、銃では役に立てないよ。そういや、真山さんはどうしてんの?」 
「別の場所で、準備してると思う」
 白猫はそう言うと、AKS74Uのストックを折り畳んでスポーツバッグに押し込んだ。
 
 二年前、このPA7を持って白猫の復讐に付き合った。まさか、自分が一発も撃つことなく終わるとは、思ってもいなかった。気づいたときには、白猫が斜面を滑り下りて、ルノーの二人に一発ずつ撃ち込んでいた。運転手は右目と眉間の間、助手席の男はほとんど鼻柱に近い左頬。ガラスで弾道が変わることも織り込み済みの、精度が高い射撃だった。
 ネックレスの中に入っている『行き先』を頼りに脱出できていればいいが、三日前に念を押すために戻ったとき、その姿はもうなかった。車の運転を覚えてからは勝手に外出することも多くなっていたが、あの時間にいなかったことは、記憶を辿る限り一度もない。真山はPA7にバックショットを装填すると、並べられた六本のM1911A1の弾倉に目を向けた。ホローポイントが八発ずつ装填されている。身に着ける装備はそれだけで、あとはクレイモア地雷が三つ、出番を待っている。
 真山はブラインドの隙間から、外を見下ろした。ほとんど人の出入りがない、寂れた住宅街。廃墟がずらりと並び、街灯だけが生きている。路地から標識まで、全てがオレンジ色だ。深呼吸をすると、真山はポーチとポケットに分散させたバックショットの予備弾に触れた。
 
 鹿野は上に戻ってすぐに呼ばれ、セントラに乗り込んだ。エンジンをかけるのと同時に助手席へ乗り込んできた林の方を向くと、言った。
「自分、リボルバーしか持ってないんですが」
「だいじょーぶだ。運転だけしてろ」
 林はS&WM645の薬室を少しだけ開き、金色の薬莢が見えていることを確認してから元に戻した。陳が後部座席に座り、M870マリーンマグナムを傘のように膝の上へ置いて、言った。
「おれ達は、先に出る。封鎖されてるか、チェックしないとな。道は、林が案内する」
 鹿野がセントラのサイドブレーキを下ろしたとき、林が道案内の準備をするように指を伸ばして、また縮めた。トランクには、外注が使うことになる三人分の装備が入っている。せいぜい二十キロほどの重量だが、セントラの動きはいつもより重く感じた。
 白猫は、この計画のことを知っているのだろうか。鹿野はバックミラーに映る『V』のネオンサインをちらりと見ると、アクセルを踏み込んだ。
作品名:Savage Reflection 作家名:オオサカタロウ