㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第1話 ㊙根暗出る樽 渓谷
私は上から目を通しましたが、「何、これっ?」とすぐさま尋ねました。
すると奈那ちゃんは少し顔を曇らせながら、答えられたのです。
「これ、父の遺言よ、私のところの旅行社で、商売に困った時にはこの旅プランを組みなさいってね、……、それでやってみようかと、ねえ洋一君……、手伝ってくれない?」
奈那ちゃんは少し遠慮がちでしたが、最後は実にキッパリと。
私はこの勢いに負け、深く考えずに「ああ、いいよ」と二つ返事。されどもよく理解出来ず、「何を、どうしたらいいの?」と聞き返しました。
すると奈那ちゃんはいきなり私の手を取り、「私、ここにある未知ワールドへ行ったことがないの、プランに組み込むとしても、どんな所かまず私が体験しとかないとね、だからお願い、洋一君、私のボディーガードとして一緒に旅してくれない」と。
そらそうですよね、一度も訪ねたことがない旅先を、売り出す旅行プランには組めませんよね。
もちろん私は「う、うん」とすぐに頷きましたが、少しばかり中途半端、というのも時間は何とかなるのですが、問題は先立つもの、そうです、――、《Money》!!
私の顔に若干の陰りが。それをすかさず読み取った奈那ちゃん、ドンと私の背中を叩き、仰ったのです。
「洋一君、心配しないで、費用はね、株で大儲けの相場師、山岸君がそのプランに投資するって、つまり洋一君の費用も含めて全部出すってよ、もちろん彼も旅に参加することが前提でね、……、大丈夫よ、ヤッチンは将来のリターンしか興味ないから」
これを耳にし、もちろん山岸が金のことしか興味がないことは理解出来ましたが、それにしても奈那のこの段取りの良さ、大々ビツクリ!!
学生時代は何もかも私任せのお嬢さんだったのですが、月日は流れ、小さいながらも今は町の旅行社の社長さん。自ら事を進めようとするその力強さを感じ、「奈那ちゃん、随分強くなったんだね、……、無銭旅行同好会の仲間として、謹んで協力させてもらうよ」と返しました。
そして一息大きくフーと吐いて、「まずはどこへ行きたいの?」と訊きました。
当然こういう会話になる事まで予定通りだったのでしょう、奈那ちゃんは迷うことなく返されてきました。
「遺言旅プランの1番は『根暗(ねくら)出る樽(たる)渓谷』よ」と。
私はこれに「ネクラ出る樽って、ちょっと陰気臭そうだけど、まっ、とりあえず……、イエス、社長さま」と返しました。
作品名:㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第1話 ㊙根暗出る樽 渓谷 作家名:鮎風 遊