㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第1話 ㊙根暗出る樽 渓谷
約束の日曜日、私は少し早めに魔界公園に行きました。そして学生時代馴染みだった柳の太い幹に寄りかかって奈那ちゃんを待ってました。約束の午後1時、それから少し時は刻まれ、ちょっと不安、――、ホントに来るかなと。
そこで再確認、ザラザラした幹に頭を押しつけてライン画面へ。そして再度読み直してる時です、「ワッ!」とサプライズ・コール。それと同時に背中をドンと叩かれました。最近縦方向に少しばかり広がりを見せる私のデコチン、無残にもゴリゴリゴリと樹皮に擦られ……、「痛っ!」 それでも振り返りましたよ。
ビックリです。
色白でスラリ。まさにお嬢さん風のレディーが長い髪を風に、まるで柳の枝葉のように揺らせたまま、ニコッと笑ってらっしゃるじゃありませんか。私は思わず「どちらさんでしたっけ?」と尋ねそうになりました。
そんな時に、「洋一君、何を鳩が豆鉄砲食らったような顔してるの、私よ、奈那よ」とそのレディが睨み付けてこられました。それでも私は言ってしまったのです、思わず。
「へーえええ、ホントに奈那ちゃん? 学生の時は日焼けで真っ黒け、髪はバサバサで、安い学食ラーメンが主食で『ド』ぽっちゃり、……、大変身したね」と。
すると奈那ちゃんは「卒業してから幾星霜、苦労の果てにこうならざるを得なかったのよ、あの『ゆる~い』学生時代に戻りたいわ、その点、洋一君は見たところ、超『のほほん』のままのようね、うらやましいわ」と返して来られました。
私はこれは貶(けな)されてるのか褒められてるかわからずボーとしていると、「さっ、今日の本題を聞いて頂戴」と奈那さんは木陰にあるベンチへとさっさと歩かれて行かれました。それを私は必死で追い掛け、どっこいしょと並んで座らせてもらいました。
すると奈那ちゃんは鞄から黒いシミが目立つ1冊のノートを取り出し、最初のページを開かれました。それから「さっ、本題に入るわ、……、ちょっとここを見て頂戴」と。
私はこの勢いに負け、彼女の指先へと焦点を合わせますと、そこには箇条書きで10項目ほど書かれてあったのです。それらは……。
旅プラン(案) : 『未知ワールドへ、ようこそ!』
1.根暗(ねくら)出る樽(たる)渓谷
2.ビーナスの森
3.高原料亭「真赭(まそほ)の芒(すすき)
等々、10項目ほどです。
作品名:㊙ 未知ワールドへ、ようこそ! 第1話 ㊙根暗出る樽 渓谷 作家名:鮎風 遊