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一人三役

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 それが、証明される形になったのが、
「今回の殺人事件だ」
 ということになる。
「犯人は誰なのか?」
 ということよりも、
「被害者が整形を受けていた」
 ということの方が実に恐ろしい。
 つまりは、
「整形を受けていただけではなく、そのモデルになった人が、元々この界隈にいた人だった」
 というのだから、これ以上恐ろしいことはない。
 それを考えると、本当に恐ろしかったのだ。

                 大団円

 そうは言っても、実際に、その被害者が、
「沢村伸子に似ていた」
 というだけで、
「そっくりだ」
 と言い切る人がいない。
 というのも、
「被害者が整形を受けていた」
 ということで、少なくとも、
「被害者は沢村伸子ではない」
 ということになるだろう。
 だとすれば、今のところの、最重要容疑者として考えられるのが、
「沢村夫妻」
 ということになるのだろう。
 いくら完全に似ていないとはいえ、
「似ているように整形させて、最後は殺され、以前いた商店街に、遺体として放置されていた」
 ということになるのだ。
「一体、どう解釈すればいいのだろうか?
 そして、一つ問題なのが、
「沢村夫婦が行方不明になっている」
 ということだった。
 テナントの店を畳んでから、ほとんど人と顔を合わさなくなり、家にいたという気配もないようで、
「どこに潜伏していたのだろうか?」
 と警察も必死の捜索を続けた。
 桜井刑事も、
「あの二人が見つからないことには、事件はまったく進展しない」
 ということを分かっていたので、進展しない以上、何もできないということであった。
 さすがに、このままではらちが明かない。
 ということで、全国に指名手配した。
 証拠はないが、さすがに、殺人では手配できないので、死体遺棄ということに、少し苦しいがそれで、指名手配をしたのだった。
「このまま見つからない区がするな」
 と桜井刑事は次第にそう思うようになてきた。
 その根拠というのは、
「死んでいる可能性が高い」
 と思ったことと、もう一つは、
「奥さんも、整形をしていれば、分からないよな」
 ということであった。
「お互いに被害者と加害者が顔を変えていて、しかも、その変えた顔が自分に似ている」
 という必要はないのだ。
 却って、誰かに似ている方が、その人だと思われて、何かに気づかれるかも知れない。
 だから、なるべく、普段から地味で、人とかかわりのないような人で、同じくらいの背格好の人を探して、その人になり切ればいいのではないだろうか、だとすれば、完全に似ていなくても問題ないし、その方が、似ていても似ていなくても、どっちもの意味で、都合がいいということになるだろう。
 桜井刑事は、しばらくすると、事件の真相に気づき、犯人を逮捕した。
 この事件において、一つのキーワードが、
「一人三役」
 というものだった、
 というのは、まず、犯人は、沢村伸子だった。
 彼女は、
「自分をこの世から消し去りたい」
 という気持ちを持っていた。
 そして、そのために、自分を殺すための身代わりとして、地味な女を探してきて、言葉巧みに近寄る。そして、
「整形をすれば、私のように男をとっかえひっかえで、人生が変わるわよ」
 といって、誘導したのだ。
 沢村伸子の恐ろしいところは、
「自分の言いなりにさせることができるのは、男だけではなく、女に対しても」
 というところであった。
 そうやって、その地味な女を誘導し、
「この世の極楽を見せてやるために、整形の費用まで出してやり、しばらく、極楽を見せてやった」
 ということであった。
 だから、伸子は、まずは、本人である自分、そして、その地味な女との二役。そして、もう一つ重要なのは、
「共犯者の存在」
 だったのだ。
 その男は、旦那がいてはいけない。一人自由に動ける人間ということであり、それが誰かというと、登場人物の中では一人しかいない。
 頭が切れるところはあるが、一人の女におぼれると、抜けることができないほどの、純粋さを持った男に対して見せる顔であった。
 そう、この事件の共犯者は、樋口青年であった。
 彼は殺人計画を立てるには、ちょうどいいくらいの頭脳を持っていた。
 そして、伸子が、
「三役目」
 を演じるにはちょうどいい相手。
 それが、樋口青年だったのだ。
 樋口青年は、人心掌握術はないが、人間観察には長けていた。
 しかし、逆に、伸子は、人間観察は苦手だが、人心掌握術は得意だったといえるだろう。ただ、その人心掌握術というのは、
「肉体を使った」
 というもので、それが、いろいろな男をたぶらかすことであり、共犯を見つけることであった。
 そもそも、他の男に色目を使ったのも、
「共犯を見つける」
 ということから始まったのだ。
 ということは、
「この事件のそもそもの計画は、最初から始まっていた」
 といってもいいだろう。
 奥さんはそのうちに、
「共犯は、妻帯者ではダメだ」
 と思った。
 それは、奥さんがいると、不倫がバレる可能性があったからだ。
 それがバレるのはいいのだが、ある程度まで、計画が進行していないといけなかったからだ。
 そういう意味で、白羽の矢が立った樋口青年は、
「共犯者としては、最高」
 という相手だったということであった。
 実にうまく計画を立ててくれた。そこはいいところだった。
 しかし、伸子は一つ大切なことを忘れていた。
「共犯を作るということは、それだけ、真相発覚のリスクが高い」
 ということであった。
 本来なら、犯行が終われば、なるべく早く始末すればいいのだろうが、樋口はそれなりに頭がいいので、自分に対しての危険は察知していて。逆に脅迫してくる始末だった。
「いずれは、始末しないと」
とは思っていたが、そうもなかなかいかなかった。
 だが、
「樋口の敗因」
 というのは、自分の頭の良さに胡坐をかいて、油断をしてしまったことだった。
 脅迫を始めた時点で、すでに、隙だらけだったのだ。簡単に毒を盛られて、殺されて、断崖絶壁から海に放り込まれた。
 一応、自殺でもいいような工作をしておいたのだが、この事件の発見者でもある樋口が、
「行方不明から、死体で見つかる」
 ということになると、桜井刑事の推理を、立証する形になってしまったことは、今度に限っては。
「伸子の敗因」
 といってもいいだろう。
 それを考えると、
「この事件は、結構策を弄していて、うまく計画されているのだが、一つのほころびから、一気に解決してしまう」
 という、一種の、
「ドミノ現象」
 といえるような犯罪ではないかと考えるのだった。
 ただこの事件に関して、松崎が考えていたことが解決へのヒントになったのだが、
 それは、松崎が、桜井刑事に発した言葉であった。
 それは、
「旦那の沢村さんが、この商店街から逃げたかのように見ていたんですが、本当にそうなのか、僕は疑問なんですよ」
 といった時のことだった。
「その時、沢村が、自分の意志ではなく、殺されている奥さんの意志が働いているとすれば、そこにも何か意味がある」
 と思ったのだ。
作品名:一人三役 作家名:森本晃次