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一人三役

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 と男は感じるのだが、当然、自分の奥さんにもそう感じて、一緒になったのだろうが、それが、どんどん違う気持ちに変わっていく。
 不倫相手が、既婚者であれば、
「お互いに、けん制しあって付き合うことになる」
 といえるだろう。
 なぜなら相手の男も、
「この奥さんも、女房と同じように、付き合っていくうちに、メッキが剥がれていくに違いない」
 ということを、今までの、
「女房という経験」
 から容易に悟ることができるからだということであった。
 しかし、男が独身だとすれば、そうはいかない。
 既婚者のような、
「歯止めが利かない」
 ということになる。
 ここでは、未婚の男性というと、樋口青年だけだった。
 樋口青年は、伸子と、
「出会う」前というと、いわゆる、
「素人童貞」
 だったのだ。
 最初は誰にも言っていなかったので、
「誰も知らないだろう」
 と思っていたが、彼は素人童貞だということは、皆にとっての公然の秘密であり。一種の、
「すぐに分かるウソ」
 というたぐいであった。
 相手をしてもらったお姉さんは、樋口青年から見れば、
「癒しの塊」
 であった。
「これが癒しというものか?」
 と感じさせられ。しかも、相手にそれを与えるということに特化していたのだ。
 だから、最初は、嵌ったもので、最初の女性に何度通ったことだろうか。
 しかし、それでも、ずっと通ったわけではない。飽きというのは、必ず訪れるというものであり、彼女に対しても感じていた。
 しかも、次第にお金に対してのもったいなさも感じられるようになってきた。ただ、そう思い一度離れたのだが、また恋しくなっていくことになった。
 それは、
「奥さんとの関係」
 にひびが入ったとかいうことではない。
 あくまでも、
「奥さんとの関係」
 とは、切り離して考えるものだった。
「風俗はあくまでも、身体の癒しを求めるところ」
 ということで割り切るようにしていた。
 しかし、それは、奥さんとの関係があった時のことで、別れると、微妙に毎日の生活が違ってきた。
「角度が変わった」
 といってもいい感じで、
「俺が奥さんから癒しを貰っていた」
 と思ったが、別れが来ても、別に悲しくはなかった。
「もう少し、未練が残ると思ったんだけどな」
 と思うほど、未練はなかった。
「竹を割ったようなあっさりと別れられる」
 というわけではなく、
「別れ方」
 というのも、
「彼女に誘発された」
 と感じるほどだった。
 それがいわゆる、彼女の天性のもので、
「もって生まれた性格だ」
 ということなのだろう。
 三人は、その日、奥さんについて語りあった。
 今まで言えなかったことを、まるで、
「追悼の意を込める」
 という形であった。
 不倫の浮世を暴露することが、供養だ」
 というのは、間違いなく言い訳に違いなかったが、
「故人を偲ぶ」
 ということに変わりはなかったのだ。
 それは、三人が三人とも、口出さなかったが、
「俺たちだけの通夜だ」
 と思っていたのだった。
 その日は何時くらい、あでだったか、結構話をしたものだ。
 結局、いつもたむろしている学生はこなかったので、少々静かであっても、賑やかに変わりはない。
 最初こそ、
「こんな話聞かれたら、恥ずかしい」
 というような、赤裸々な話をしていたのだ。
 三人が三様で、
「実は奥さんに騙されていたのではないか?」
 と思ったのかも知れないが、そうではないようだ。
 どうしてそう思ったのかというと、その時は分かっていたが、すぐに分からなくなった。
 なぜなら、
「次第に事件が進行していくうちに、考え方が微妙に変わってくるのだが、考え方の代わりよりも早いスピードで、事件が進行する」
 といってもいいだろう。
 だから、
「追いつけない」
 ということであり、自分の気持ちの進行に対して、感覚がマヒしてくるというような感覚に陥るのであった。
 今回の事件はまさにそれで、
 当事者が、いろいろ考えているよりも、事件の展開が早かったようだ。
 しかし、
「事件の進行が速い」
 というのは、今に始まったことではなく、逆に、
「自分の考え方が、事件の進行に追い付けない」
 ということが多くなり。警察の捜査本部では、鑑識からもたらされた一つの事実が、大きな、波紋を与えたのだった。
 桜井刑事はその報告書を見て、驚愕した。その内容は、
「事件を困惑させる」
 などという簡単なものではなく、
「間違いなく、カオスにするものだ」
 ということであった。
「それがどういうことなのかというと、
「事件を、根底から覆すもの」
 ということで、せっかくまとまった捜査方針が、一から崩れるものだった。
 それがどういうことなのかというと、
「おいおい、それじゃあ、被害者は誰なんだ?」
 ということを桜井刑事はいう。
 明らかに、
「沢村伸子そのものだ」
 と思っていただけに、この言葉だけでも、
「事件が根底から変わってくる」
 といってもいい。
 そう、どうやら鑑識からもたらされたのは、
「被害者が、沢村伸子ではない」
 ということであったのだ。
 それが分かったのは、やはり、指紋照合であろう。となると、犯人が手首を隠しておかなかったのは、失敗といえるだろう。
 しかし、それは、あくまでも、
「遅かれ早かれ」
 ということであり、この時に受けた衝撃からいえば、そこまで大きなセンセーショナルではない気がした。
 鑑識が持ってきた新たな発見というのは、
「被害者は、別人で、顔は整形されたものだった」
 ということだったのだ。

                 生殺与奪

「生殺与奪の権利」
 というものを聞いたことがあるだろうか。
 これは、独裁者などによく言われていたことであり、それは、例えば昔のような、
「奴隷制度」
 があった時、
「人間というものも、祖霊であれば、何をしてもかまわない。それで死に至ろうとも相手は奴隷なのだから、俺の持ち物だから、好きに壊しても構わないではないか」
 というのが、
「人間でも奴隷であれば」
 という考え方と、
「命を命と思わないという考え方だ」
 といってもいいだろう。
 それを、
「生殺与奪の権利」
 として、一定の人間には、
「与えられた権利」
 であり、
「それが自分だ」
 という考え方である。
「人間をものとして考える」
 ということなどあるのだろうか?
 そう思うのは、
「皆が相手は人間だ」
 ということで、
「人間には、感情というものがあり、だから、気持ちが通じ合えるわけである。だが、相手が奴隷という、一種のその他大勢というものに、いちいち感情などないと思っているのだから、それが、生殺与奪だ」
 と言われたとしても、その人だけにとっての理屈であり、もし、自分たちが迫害される側の人種だったとすれば、
「そんな生殺与奪などありえない」
 と思うことだろう。
 ただ、それはあくまでも、
「自分たちの仲間内」
 ということで、それ以外の人は、
「どうなっても構わない」
 と思うだろう。
 特に奴隷であればなおのこと、
「俺には関係のないことさ」
 と思い、逃げることだろう。
作品名:一人三役 作家名:森本晃次