悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅
やがて、山麓の道がなくなり、少し下った先の県道に入り、北上を続けた。西側の沿道の家の屋根越しに時折、中央アルプスの峰々が見え始めた頃、道の駅「花の里いいじま」が見えてきた。
小休止のあと、駅舎には入ったが何も買わず、観光パンフレットのみ頂いた。
間もなく夕方になるため、この道の駅で車中泊をしようかと思ったが、付近には温泉はなさそうで、加えて、伊那盆地の底部に位置することから、夜は暑そうな気がした。そこで、もう少し北上して、駒ヶ根高原に向かうことにした。
駒ヶ根高原には幾つかの想い出がある。
バイクの最初のキャンプツーリングで泊った「駒ヶ根キャンプセンター」があり、家族と一緒に乗った「中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイ」があり、友人とのバイクツーリングの際に食べた名物「味噌カツ丼」のある場所だ。
さらには、「ゆるキャン△」の登場人物の志摩リン(リンちゃん)が入った「こまくさの湯」もあり、私のお気に入りの高原のようだ。
R153から左折して、駒ヶ根高原に向かう県道75号線に入ると勾配がきつくなり、次第に観光地らしい高原の佇まいになっていった。
中央アルプスの玄関口でもある駒ヶ根高原、その中心部にある「駒ヶ根ファームス」に立ち寄り、そこで、夕食用の鮎と鱒の甘露煮を買った。
そこの観光案内所で、高原全体のマップを入手した際に、ここの駐車場で朝までクルマを停めることができるのかと訊くと、夜間は入口を閉めるとのことだったので、他の場所を探すことにした。
ついでに、立ち寄り湯について尋ねると、近くの「こまくさの湯」を紹介され、そこの駐車場では、翌朝までクルマを停めることができると教えてくれた。さらに、50円の割引券も頂いた。サンクス。
500mほど坂を上った先には教えてもらった早太郎温泉「こまくさの湯」があり、その駐車場に、車中泊前提で場所を選んで「ジル」を停めた。
早速、着替えを持って温泉の建屋に向かっていたとき、キャブコンタイプのキャンピングカーから下りてきた夫婦に声を掛けられた。
彼らは愛媛県からで、信州の旅をしていて、今夜はここで車中泊するとのことだった。彼らは、私が「ジル」から下りて温泉に向かっているのを見ていたようで、キャンピングカーで旅をしている人には声を掛けやすかったとのこと。こんなふうに始まる会話が楽しいし、嬉しい。
彼らとはもう少し長い会話をしてもよかったのではと、あとで少し反省したのだが、この時、早く切り上げたのは、一刻も早く湯につかり、ゆっくりと手足を伸ばしたかったためだった。
温泉につかった。スベスベする湯で、おじさんの身だが、肌がきれいになるようで嬉しい。
露天風呂には、山の形をした板状の石が垂直に立ち並んでおり、南アルプスの山々も形作られていた。その中の北岳と間ノ岳の標高がなぜか1mずつ間違っていた。
そんなことを思っていたせいか、露天風呂から見える景色については、残念ながら、あまり憶えていなかった。
温泉につかったあとは、「こまくさの湯」の裏手にある、扇状地の駒ヶ根高原を形成した太田切川(おおたぎりがわ)沿いの遊歩道を歩いた。少し上流側からは中央アルプスが見えた。最初は薄雲が掛かっていたが、次第に夕陽の陰になり、最後は、シルエットになった。高原の川沿いには、山からの風が吹いていて、気温は高くない。この夕陽と陰の情景を見ていた間はずっと夕涼みになった。今夜は快適に寝ることができそうだ。
この日の夕食はカレーだ。レトルトカレーもパックのご飯も、電子レンジでチンして、先ほど買った鱒の甘露煮をカレーの上に載せ、ガスコンロで沸かした湯を注いだコーンスープの簡単なメニューだ。飲み物は野菜ジュースだった。
夕食後は、自宅から持参したゼロコーラを飲みながら、PCにスイッチを入れて、今日の出来事を「旅のメモ」に残し、走った道をロードマップに赤いラインマーカーでトレースして、私の「旅のルーティーン作業」を終えた。
R152の通行止めで北上することが中断されたものの、お気に入りの駒ヶ根高原で車中泊していることに満足していた。
窓から吹き込む風が涼しく感じられた。さすが標高800mの避暑地の高原だ。バンクベッドの小窓を閉めて、肌掛け布団を胸まで掛けるとすぐに、眠りに落ちた。
作品名:悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅 作家名:静岡のとみちゃん