悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅
それは、降雪が激しくなり、最高部に昇るペアリフトの営業中止を知らせるアナウンスが流れた直後に、最後の客として、友人と二人でリフトに乗った。ひとつ前のリフトが雪で見えなくなるほどの降雪だった。リフトを降りてからは、見る見るうちに雪が積もっているのが分かるほどで、馬の背のように狭く、こぶのあるゲレンデを、かなり苦労して滑って下った。しかし、あと数分も経てば、降雪の勢いで滑ることが困難になったかもしれない。やっとリフトに乗った地点まで下った時は、マジにホッとした。
若い頃は毎年、スキーを楽しんでいた。この後立山連峰・白馬連峰の東側の斜面は今、Hakuba Valleyと呼ばれているエリアで、なんと、10ものスキー場があり、当時、その中心的なエリアの大型の栂池、岩岳、八方、そして少し離れるが、小さな白馬みねかたスキー場でも滑っていた。このエリア以外では、長野県の上田市の菅平、岐阜県飛騨地方の高鷲スノーパーク、ダイナランド、めいほう、そして長野県南部の治部坂や富士山周辺に行ったが、こうして、スキー場の名称を羅列すると、かなり広範囲でスキーをやっていたことを改めて気が付き、懐かしく思った。
高校生になった私の娘はスキーを、中学生の息子はスノボを始めたが、妻はいつもレストハウスでのんびりしていたが、我が子たちと一緒にゲレンデを滑るのは、何とも楽しいひと時だった。子供たちは、私ほどは夢中にはならず、娘は英会話、息子はバスケに夢中になっていった。
そういう私も、もう15年以上もスキー靴を履いていない。しかし、自宅の物置にはまだ、スキーの板と靴などを保管していて、クローゼットにはスキーウェアが吊り下がっているが、これから先、使うことがあるのだろうか・・・、この数年の内には、「ジル」にチェーンを取り付けて、雪道を走ってスキー場に行って、車中泊しながら、連日、滑ってもみるのもいいのだろう。ちょっと真剣に考えてみよう。
夏のスキー場を見渡すと、雪があるときのゲレンデになる山の斜面の山林を切り開いた場所や丘の斜面には誰もおらず、ゴンドラやリフトは動いていない。しかし、そこに雪が降れば、多くのスキーやスノボの客で溢れ、スピーカーから音楽が聞こえ、スキー場ならではの喧騒が聞こえてくる。そんな思いに耽ながら、スキー場の下端の道を歩き、これからの行き先を考え始めた。
たとえば、さらに北上して姫川やJR大糸線(おおいとせん)に沿って糸魚川まで走って日本海に抜けるか、東側に進んで、戸隠方面に行ってみるのか、迷っていた。
そういえば、以前のバイクツーリングの際に、長野の善光寺の隣の公園にテントを張って泊ったことがあり、その翌日、西に向かった際に、今でも忘れられない二つの素晴らしい景色に出会った。
それは、「戸隠山」の険しく連なる厳しい山容、それに「大望峠(だいぼうとうげ)」から見た北アルプスの景色だ。今回の旅で、それらをもう一度見たくなり、行き先は東方面に決まった。
もう一方の日本海に向かって走るルートは、信州の旅のプラスアルファになり、ちょっと欲張ってしまいそうな気がして、そこは、次回の「キャンピングカーの旅」で行けばいいやと思った。
ちなみに、JR大糸線は、長野県松本市の松本駅から新潟県糸魚川市の糸魚川駅に至る鉄道路線で、その南側の松本駅~南小谷(みなみおたり)駅間はJR東日本、北側の南小谷駅~糸魚川駅間はJR西日本の管轄だ。ちょうど、日本を左右に分ける糸魚川静岡構造線の上なので、ひとつの鉄道線も半分に分けるのだろう。
再び、JR白馬駅の方向に南下し、その手前から、R406に左折して、戸隠方面に向かった。
姫川を渡るとすぐに「大出(おおいで)公園」の看板があり、ちょっと立ち寄ることにして、その駐車場に「ジル」を入れた。
ここでは日本海に北上する姫川が東西に流れ、その流れの奥には白馬連峰が見えるフォトスポットで、春夏秋冬のどの季節でも最高の写真が撮れるようだ。たとえば、吊り橋が掛かった姫川の奥には冠雪した白馬連峰が、その手前には桜の花、欲しい対象が全て揃っている美しい春の風景写真を見たことがある。夏は・・・、それを見に、大いに期待して立ち寄ったのだが、夏の午後はやはり、白馬連峰は薄雲に隠れていた。
駐車場の管理人の高齢の男性に、暑くないですかと声を掛けると、川の流れで起きる風が吹いているから、そんなに暑くはないとのことだった。
天気に詳しそうだったので、フォトスポットからの景色を訊いたところ、今日は「黒部に冷たい風が吹いているので、白馬には雲が掛かってしまう」と教えてくれた。
天気予報の信頼度が上がっても、このような昔からの言い伝えは有難いもので、それらは今、気象学でその理屈は証明できるのだろうが、それはそれ、言い伝えは興味深いものだ。
このような気象に関する「言い伝え」は面白い。たとえば、「ツバメが低く飛ぶと雨になる」、「うろこ雲が見えたら、明日は雨になる」、「月や太陽にカサがかかれば雨になる」などは一般的なものだが、各地の気象に関する「古くからの言い伝え」はそれ以上に面白く、興味を持っている。ネット検索すれば、各地のものを知ることができるかもしれない。
そこで、思い付いたのは、「キャンピングカーの旅」に出る前に、旅先の「気象に関する古くからの言い伝え」を調べられるならば、車中泊の場所で、周囲の自然に耳を傾け、これまで以上に空を見上げてみよう。これまで以上に、自然との関わり合いを持つことに決めた。
さて、「大出の吊橋」の手前で、この公園のマップを入手。ここには5つのゾーンがあるようだが、吊り橋を渡った川沿いの「親水ゾーン」を回ることにした。
親水広場には水車があり、思いの外、速く回っていたが、それは豊富な水量のためだろう。
ついでに、その水の中に足を入れると、ひんやりして気持ちが良かったが、すぐに、その冷たさに我慢できなくなった。流水から足を抜いて、遊歩道を歩いて少し先に進んだとき、それまで感じなかった地面からの熱がサンダルを越しに伝わってきた。先ほどの場所に戻り、もう一度、足をつけた。先ほどよりは長い時間、足をつけることができたが、やはり、我慢の限界を超えてしまい、水から足を抜いた。ジワーっと効いてくる感じで、足の疲れが取れた。
その先にあったのは茅葺き屋根の家、その軒先にはかなりの水量の小川が流れ、その情景が気に入った。我が家にも軒先に小川が流れていたならば・・・と、その心地良さを想像しながら羨ましく思った。
この公園には、交流ゾーンや眺望ゾーンがあり、そこから、北アルプスと姫川のセットの写真が撮れるのだろうが、山容が見えないので、次回に期待することにして、「ジル」に戻った。
駐車場の付近にあった「大出公園」と書かれた看板には、「白馬みねかた」とも書かれていて、その横にはスキーのアイコンがあった。
作品名:悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅 作家名:静岡のとみちゃん