悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅
視線を眼下のジャンプ台から正面に向けると、後立山連峰(白馬連峰)を源流とする松川による扇状地に広がった白馬村を一望でき、その中には、チロル風なホテルも見えた。さらに東側を眺望すると、戸隠山塊が広がっていた。写真に撮ったこの景色を今、私のパソコンのデスクトップの背景にしている。
その風景を暫く眺めていると、赤いパラグライダーが飛んできた。優雅だ。そして私に爽快感をくれた。パラモーターのフライト中は常にプロペラが回っていて、エンジン音が聞こえるのだが、パラグライダーは音がしない。それが優雅だと思わせたのかもしれない。
パラモーターで、この白馬村の上空を飛びたくなった。今、見えている東側の戸隠山の山塊や後方の後立山連峰を見渡すことができるはずで・・・、そう思い始めると、次回はパラモーターユニットを持参した旅になりそうだ。そして、ジャンプ台の遥か上空を飛ぶのは問題ないと思うが、ジャンプ台近くを、スロープに沿って飛べるならば、ジャンプの疑似体験ができそうだと思ったが、許可は出ないだろう。
最高の景色を十二分に堪能したあとは、スタートタワーの中2階のオリンピックギャラリーで、長野冬季オリンピックの展示資料を見て回った。懐かしいシーンが並んでいた。
再びリフトに乗って下ったあとは、ノーマルヒルとラージヒルのブレーキングトラックの中央に設置された表彰台の金メダリストが立つ場所に立って、ジャンプ台を背景に、セルフタイマーで写真を撮った。メダリストの思いを想像できないが、同じ場所に立てたのは光栄なことだ。
次に向かうのは、白馬村で最も高い場所にある温泉の「おびなたの湯」だ。
ジャンプ競技場の下端やスキー場の麓は扇状地の扇頂部にあり、そこから扇央部まで下って、左折して北に向かって走ると、「白馬大雪渓」から流れ出る松川沿いに上る道になった。その道の両側の木々が次第に密になったあと、いきなり開けた場所に出た。そこから谷側には温泉が見え、山側にはその駐車場スペースがあった。
入浴準備をして「おびなたの湯」の入口まで行ったところ、閉まっていた。軽い絶望感。
諦めて、「ジル」に戻ろうとした時に、バイクのライダーがいたので、残念な旨を話したところ、12時から営業が始まるとのことで、あと15分ほど待てばいい。その間、ライダーとの会話が始まった。
バイク、旅、登山、そして温泉が話題となり、私とはかなりの共通点があった。その中で、彼は九州にもバイクで行ったことがあったことから、ひとつ、面白い蘊蓄を教えた。
それは熊本県の阿蘇山の最高峰の高岳(たかだけ、噴煙を出しているのは中岳)の標高1,592mの憶え方で、熊本県の旧名の肥後国で、「ひ・ご・く・に」、そう1592だと。
そして、九州の屋根「くじゅう連山」の法華院温泉(ほっけいんおんせん)などの話で盛り上がった頃、「おびなたの湯」の営業が始まった。
温泉の湯はかなり熱く45℃、少し我慢して入浴すると、無色透明の温泉が体の中に入ってきている感じがして、それが、天然水素温泉の効能かと勝手に思いながら、夏の炎天下での長湯になった。ここの温泉は飲めるようなので、温泉の入口にあった湯を飲み、内からも温泉がしみ込んでいった。
「ジル」に戻ってからすぐに、冷蔵庫の中の冷えたコーラを飲んだ。それが誘い水になり、空腹に気付き、湯を沸かして、カップ麺を食べた。
この温泉まで上ってきた道は「白馬大雪渓」の登山口の山小屋「猿倉荘(さるくらそう)」にたどり着く。一度は、「白馬大雪渓」を見たいと思っているのだが、雪渓の下端までのトレッキングの所要時間は約1時間半とのことで、往復3時間弱になるため、今回はパスすることにした。
実は、温泉に入ったあと、とんでもない失敗をしていた。
それは、温泉で使ったタオルを水道水ですすがず、そのまま「ジル」のダイネットに持ち込んだことだ。その数時間後、そのタオルが発する匂いは卵の腐ったような匂いに変化しており、ダイネットの消臭剤は全く効果なく、暫くの間、その匂いが車内に充満していた。そのあと、タオルをどこかの水道水ですすぎ、ビニール袋に入れて保管した。
いつもは、温泉に入ったあとは必ず、タオルを水道水でしっかりとすすぐのだが、この「おびなたの湯」の脱衣所や出口までの間に、タオルをすすぐ水道水が無かったのか、見落としたのかは憶えていないが・・・。
その日の夜、「ジル」のバンクベッドで寝た私にも、この匂いが付着してしまったような気がしていた。二度と繰り返したくない失敗だった。
昼食後はJR白馬駅前まで下った。この駅はスキー客や登山客で、そのシーズンは混むのだろうと思いながら、ロータリーをぐるりと回ってからR148を北上した。
少し走ると「白馬岩岳」と書かれた案内標識があり、その交差点を左折して県道433に入った。上り坂を走ってゆくと、「岩岳」と書かれた標識があったが曲がらず直進した。それは、想い出の多い「栂池高原スキー場」を早く見たい気持ちが募ったためだ。それでも多少の未練があり、助手席の窓越しに、夏の岩岳スキー場を探して、見えると、なぜか納得して、栂池高原スキー場を目指した。
この岩岳スキー場でもスキーをしたことがあるのだが、どうも思い出せない。ゴンドラやリフトを下りてゲレンデを見下ろせば思い出すのかもしれないが・・・、行ったのにその場所の思い出がなくなっているのは実にもったいない。
その後は樹林帯を走り抜け、視界が開けると、「栂池パノラマ橋」に差し掛かった。橋を渡っていると左前方に、栂池高原スキー場の「鐘の鳴る丘ゲレンデ」、その麓側には幾つものホテルの建物が見えた。
このスキー場には何回も行ったのだが、ここから見る景色は初めてだった。当時は、岩岳と栂池を結ぶ道はなく、JR白馬大池駅あたりまで下り、そこからジグザグに上っていったものだ。
その景色の素晴らしさと、何度も滑った「鐘の鳴る丘ゲレンデ」の全貌が見えたことで、もう一度眺めたくなり、橋を渡り終えてからUターンして戻り、もう一度、この橋を渡りながら、この景色の写真を撮った。
県道から、夏のゲレンデの下端の道に入り、鐘の鳴る丘ゲレンデのモニュメントが見えるあたりに駐車して、少し散策していると、スキーを楽しんでいた頃を思い出した。
このスキー場は、北アルプスの後立山連峰の東側の、長野県と富山県の県境の支脈の山々を背景に、広大なスケールのゲレンデが魅力的で、何と言っても、広過ぎるほどの大緩斜面があり、ビギナーだった頃は、そこでよく練習した。上達するにつれ、標高を上げて、急斜面やロングコースを一気に滑ったものだ。ゴンドラやクワッドリフトもあり、一気に、ゲレンデの上まで行けるのが嬉しかった。そんなこんなで、この栂池は、私の最もお気に入りのスキー場だった。
ところが、このスキー場で、雪の怖さを体験したことがあった。
作品名:悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅 作家名:静岡のとみちゃん