悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅
暫く道なりに走り、大町市役所あたりでR148に合流。そのあたりから、「ジル」のフロントガラス越に見える北アルプスのサイズが大きくなっていった。今は夏だが、初夏ならば、まだ雪が残る山容が見られたのだろう。
若い頃に行ったスキー場は南から、五竜、八方、岩岳、そしてお気に入りの栂池(つがいけ)、それらを思い出したことから、明日は、夏のゲレンデを見て回ることに決めた。
少し走ると、「黒部ダム・大町温泉郷」の案内標識が見えた。そこを左折すれば、「立山黒部アルペンルート」の長野県側の入口の扇沢駅に至るはずだ。
高校の修学旅行の時に、扇沢駅からトロリーバスに乗って「黒部ダム(黒部第4ダム)」までは行ったことがあるが、その先は、大袈裟だが未踏の地だ。
黒4ダムの天端(てんば:ダム堤体の一番上部)を歩いた先からの「立山黒部アルペンルート」は、トンネル内のケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバスを乗り継ぎ、標高2,450mの立山の室堂、その標高を十分に体感したあとは、専用バス、ケーブルカーを乗り継ぎ、立山駅まで下る。日本では文字どおり、最高の山岳ツアーができる豪華なルートだ。
実は、以前から迷っていて、答えを出せないことがある。
それは、扇沢駅前の駐車場に「ジル」を停めて、「立山黒部アルペンルート」の反対側の立山駅まで行くと、どうやって「ジル」まで戻るか、だ。
憧れのルートなので、往復するならば、山岳景色を行きも帰りも眺められるのは二重の喜びなのだが、アルペンルートを戻るのはひとり約2万円だ。妻との旅ならば約4万円になる。もし天候が変わり、山容が見えなくなれば、ちょっとむなしくなるのだろう。それに一日での往復は忙しく、厳しい感じがする。
一方で、扇沢駅から立山駅まで、クルマの回送のサービスがあり、その料金は約3万円で、金額差は1万円だ。
さらには、公共交通を使って日本海を見ながら戻って来る旅を織り込む案も考えられる。
どれがベストなのか、いまだに決めかねてが、妻の意向が最も重要なので、今度、しっかりと説明して、最終判断をしたいと思っている。
色々と書いてしまったが、今回の旅では扇沢には行かず、R148で北上を続け、まずは、仁科三湖の最も南側の木崎湖(きざきこ)を目指した。
この地は糸魚川静岡構造線上にあり、湖は断層性の構造湖で、西側には北アルプスの後立山連峰が聳えている。
ところが、湖の入口の信号を見落として、その先のトンネルに入ってしまい、通過した先で湖側に入り、湖畔の道を南下して、木崎湖の南端に出た。
「ジル」を停めたあと、手漕ぎボート用の桟橋を歩き、湖の中を覗いたところ、驚くほど澄んでいて、その透明度に驚いた。手漕ぎボートの店は営業していなかったが、他の店では釣り船の貸し出しをやっていた。船外機付きだ。船舶免許が無くても、2馬力以下ならば問題ない。
湖の周辺には多くの自然が残っていた。湖に映るその自然の写真を撮りたかったが、湖面をなぞる微風でさざ波が立っていて、狙った写真は撮れなかった。
湖畔の道を再び走り、先ほど左折したポイントから再びR148に入り、北上した。
次の中綱湖(なかつなこ)は小さい。わざわざ立ち寄るのはやめて、その北側の青木湖に向かった。R148に並走している湖畔道路を走った。ここにはアウトドアの店があり、そこから湖に、カヌーやSUPを漕ぎ出すTV番組を見たことがある。その番組について色々と伺いたかったが、残念なことに、もう今日の営業は終了した様で、湖畔の様子を写真に撮っただけになった。
先ほどの木崎湖は釣りや湖水浴場で賑わいがあるようだが、この青木湖はアウトドアを楽しむ湖のように感じた。
南北に並ぶ仁科三湖は、北側の青木湖に源を発する農具川(のうぐがわ)で繋がっていて、南側の木崎湖から流出する高瀬川は南下する。
そのことから、青木湖を北上した先の白馬村の手前の佐野坂峠(さのさかとうげ:標高860m)が中央分水嶺だと思ったが、そういえば、塩尻の南側に中央分水嶺があったことを思い出した。
調べると、その高瀬川は安曇野で犀川に合流し、その後に北上して、長野の郊外で千曲川に合流、新潟県に入ると名称が信濃川となり、日本海へ注ぐ。
佐野坂峠から下ってゆくと間もなく、道の駅「白馬」が見えてきた。今夜の車中泊予定の場所だ。
まず驚いたのは、駐車しているクルマが多く、駐車するスペースが見当たらなかった。人気の高い道の駅のようだ。そこで、北側の白馬村振興公社側の駐車スペースに、暫定的に停めさせてもらった。
道の駅では、息子向けの土産の酒と今夜の夕食用のなめこを買った。
駅舎の奥に駐車できるスペースがあったので、道の駅の承諾を頂き、そこに「ジル」を移動させた。
そこは何かの工場に面していたので、始業時間を訊いたところ午前8時以降に仕事が始まるとのことで、その工場側に「ジル」の頭を向けて、バンクベッドが工場側になるようにして停めた。就寝時の騒音を少しでも小さくするためだ。
暫くして、隣に停まったクルマがエンジンを止めないので、道の駅から依頼された「民家にも面しているスペースのためエンジンの掛けっぱなしはNG」を伝えたところ、そのクルマは駅舎の正面に移動して行った。
多くの道の駅の駐車場では、長距離トラック以外のクルマでも、エンジンを止めないクルマが散見される。エアコンを使っているためかもしれないが、そうしなくてもいい何らかの工夫をして欲しい。
午後11時過ぎに就寝しようとした時、けたたましい排気音のするクルマが入ってきた。暫くの間、そのクルマのエンジンは掛けっぱなしだったことから、車中泊をしている多くの人が、何とかならないのかと思ったことだろう。しかし、私も含めて誰も注意はしなかった。
そもそも、うるさいのでエンジンを切ってくれと依頼するにはかなりの勇気がいる。その上、排気音の大きなクルマのドライバーにそう依頼するならば、何か起きるのかもしれないと思ってしまい、注意できなかったというのが真実だと思う。その後、再び爆音を立てて出て行った。
私は正直、安堵した。多分、今ここにいる全員が安堵したことだろう。
改造部品の販売の取り締まりを強化してもらいたいものだ。
そうそう、この日の夕食は、野菜やきのこたっぷりのジンギスカンと味噌汁で、白米を入れる胃袋の余裕はなかった。
作品名:悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅 作家名:静岡のとみちゃん