悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅
飛騨川が、V字谷からやや広い河原を持ち始めたあたりに、道の駅「ひだ朝日村」があり、そこにも立ち寄った。
広い駐車場に大きな駅舎、手入れされた芝生にはグランドゴルフ会場があり、その奥にはなぜか、4本の柱で屋根を支えた土俵が見えた。夏祭りの際には「ちびっこ相撲大会」が開催されるようで、ここ出身の大相撲の力士はいるのだろうか?
グランドゴルフの会場の芝生の育成状況は素晴らしかった。自宅の庭の芝生を思い出したが、もう少ししっかりとメンテしなければいけないと少々反省。
駅舎内で買ったアイスを食べながら、駅舎の外壁に貼られたマップを見ていると、ここからR361で北上して、R158で東に向かうと安房峠方面にたどり着けることを確認した。そこを西に少し走ると高山市街に入ることも分かり、少しだけ高山に行ってみることにした。
観光マップなどには、高山の街は「小京都」とも称され・・・とあるが、全国のあちらこちらに「小京都」が存在しており、勝手に「小京都」と名乗っていいはずはないと思いながら、疑問が涌いてきたので、ネットで調べてみた。
すると、京都市を含む26市町により結成された自治体の連携組織「全国京都会議」なるものがあり、そこに加盟した上で、次のような条件にひとつ以上あてはまるならば、「小京都」を付けられるとのことだった。
①京都に似た自然景観、町並み、佇まいがある。
②京都と歴史的なつながりがある。
③伝統的な産業、芸能がある。
その後の加盟や脱退もあり、2023年10月現在は38ほどあるようで、日本中に「小京都」が点在している。
高山は、一度は加盟したが、今は脱退している。脱退しても、「小京都」が付いたままのようだが・・・。
高山市街の手前には、東山寺院群の大きな寺院が幾つも並んでいて、その中に「ひだ高山天照寺ユースホステル(YH)」があり、そこで、ちょっと考えられない体験をしたことを思い出した。
確か、前述の乗鞍岳を登頂したあと、この「ひだ高山天照寺YH」に泊ったはずだ。
YHの消灯時間は早い。確か10時頃だったと思うが、その消灯時間の直前にYHに到着して、宿泊手続きをして、案内されたのは大部屋で、かなりの人数の男子が布団の上に座っていた。自分の寝床を準備した直後に消灯になった。
10分前までバイクに乗っていた私は、頭も体もまだ睡眠を必要としていなかったため、いきなり眠れる訳もなく、どうしたものかと思いながらも、少し迷ったが、「バイクでここ高山に来た人、集まって」と、暗い部屋の中で声を上げると、ごそごそと、多分20人くらいのライダーが集まり、車座になってもらった。自己紹介から始まり、このツーリングでの出来事や情報交換などをしていると、YHの人から「もう寝るように」と注意されてしまい、それぞれの布団に戻り、就寝した。
翌朝、誰が昨夜、車座になったライダーなのか分からないまま、ひとりで朝食を食べたのち、YHの玄関に行ったところ、ライダーらしい服装の男子があちらこちらにいたので、もう一度、少しの勇気を出して、「昨夜、消灯後にバイクの会話をしたメンバーの皆さん、YHの前で集合写真を撮りましょう」と声を掛けた。
すると、軽い会釈を交わしながら、ずらりとバイクが並び、ライダーは自分のバイクの横に立つ集合写真を撮った。そして少し会話をしたあとに走り去るバイクをなぜか、責任者のような顔をして見送った。
私のバイクツーリングのアルバムに、YHの前にずらりとバイクを並べて撮った写真がしっかりと貼られている。リアルな出来事だった証拠だが、何かのドラマのワンシーンのように思えてならない。
あの時、ちょっと勇気を持って行動したことが思いもよらない結果になり、あのメンバーの何人かは、今でも憶えているのかもしれない。ちなみに、その時の私のバイクは、かなり人気のあった「カワサキZ400FX(赤)」で、それゆえ、サイドカバーを何回も盗られた苦い経験もある。まだ2輪大型免許を持っていなかった頃の愛車で、確か395,000円、バイトで稼いだ金で買ったものだった。
今現在、そのバイクは2~300万円もの価値があるようだが、信じられないプレミアム価格だ。
セカンドライフの今、ちょっとした勇気を必要とする行動はなくなった。齢を重ねたせいか、勇気を必要せず、思ったことを行動に移せている気がする。それは、私自身に素直になったのかもしれないし、何かに怖さを覚えなくなったせいかもしれない。ただ、周囲には、迷惑を掛けないように心掛けている。
思い出話が長くなったが、今、JR高山駅に向かって「ジル」は走っている。
助手席側の車窓から、高山を訪れる観光客のほぼ全員が足を運ぶ「古い町並み」の通りが見えた。チラッと見たところ、コロナ禍の今でも、やはり多くの人で賑わっているようだった。
直進して左折すると、JR高山駅の手前にバスセンターがあり、そこは、乗鞍コロナ観測所に向かうバスに乗車した場所で、懐かしさを覚えた。
そして、JR高山駅が目に入った。しかし、それは私が知っている駅舎ではなく、近代的な駅舎に変わっていて驚いた。2016年に建て替えられたようだが、私が抱いている高山のイメージにはそぐわない気がした。
先ほど見た「古い町並み」をひとり、その佇まいや土産物店を見ながらのそぞろ歩きもいいのだが、男女のペアや、ワイワイやっているファミリーやグループが目に入り、多分、孤独感を感じてしまいそう。それに、かなり前に、ここには来たことがあり、多少ながらも変化はあると思うものの、佇まいや雰囲気は知っているので今回はパス。ということで、高山の街のマップに載っていた散策コースを「ジル」で走ることにした。
それほど広くはない道に、駐車や停車している何台ものクルマがあり、それで渋滞が起きていたが、それは観光地の宿命かもしれない。しかし、「ジル」が停まる度に周囲を見渡すことができるので、それもいいと思いながら、走り続けた。
先ほど見た「古い街並み」の反対側の入口付近で、ちょうど横断歩道で渡る人を待っている間に、「ジル」に乗車したまま写真を撮った。コロナ禍の今、多くの観光客の混雑ぶりには驚いたが、皆、マスクはしているので、感染リスクは小さいと思いながら、散策を楽しんでいるのだろう。
ちなみに、私は、「ジル」から離れる際は必ずマスクをして、「ジル」に戻ってきたときは、運転席にはジェルタイプの消毒液で、ダイネットのエントランスにはスプレータイプの消毒液を置いていて、毎回、手を消毒する徹底ぶりだ。
まだまだ長いセカンドライフ、今度、妻と来るときは、この「古い町並み」をゆっくりと散策を楽しみたい。そのとき妻は、必ずや高山の地酒の試飲を繰り返すのだろう。私は「ジル」の運転があるから飲めないが、ノンアルコールの清酒はあるだろうか? しかしながら妻は、まだ働いていて、いつになったらセカンドライフを始めるのか、皆目、見当が付かない。気長に待つことにしよう。
作品名:悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅 作家名:静岡のとみちゃん