悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅
この紀行文を執筆しながら、「大沼湖」の周辺の地図を見たところ、写真を撮った場所のちょうど対岸にユースホステル(YH)があることに気付いた。学生の頃に旅が好きになり、YHを利用した旅を重ねたが、今、その数がかなり減少したようだ。大沼湖の写真を撮っていた時にもし気付いていたならば、そこを訪ねて、駒ヶ根高原のことや、私がYHを使った頃を思い出しながら、今現在のYHに泊る人たちのことを尋ねたことだろう。少し残念な気がした。
「大沼湖」のあとは「駒ヶ根キャンプセンター」に向かった。
ここは、約20年前にビッグスクーターでひとり、1泊2日だったが、初めてのキャンプツーリングに出掛けた際に、テントを張って泊った場所だ。そのためか、このセンターの建物の入口や駐車場、そしてテントを張ったサイトも、キッチリと記憶していた。
今、このツーリングのことを振り返ると、少し無茶な計画だったと思っている。
初めてのキャンプツーリングだったので、天気の良い日を選んで行けばよかったのだが・・・、ここは曇りのち雨、その先は雨のち曇りという天気予報から、綱渡り的だが降雨を避けられ、ずっと曇り空の下でのツーリングになると判断して決行した。
その読みは見事に当たったものの、濡れた路面が多く、どうしてもレインスーツ(雨合羽)が必要だったこともあり、ただ走って、テントに泊っただけのツーリングだった気がする。なので、駒ヶ根高原についても、このキャンプセンターくらいしか記憶に残っていなかった。
今もまだ、このビッグスクーターを所有しているが、もう20年選手で、外観も傷んできている。そのため、長い旅に出掛ける際は、専ら全天候型の「ジル」ばかりだ。
駒ヶ根高原からは、桜で有名な高遠を経由して、南アルプスの北部の高原を走って、その東側の八ヶ岳連峰の裾野に広がる茅野(ちの)を目指すことにした。
飯田盆地の中央を走るR153で北上して伊那市に入り、そこで右折してR361で高遠に向かった。
南アルプスの西側の麓に位置する高遠の街に入ると、国道沿いの家並みの景観や歩道を揃えるような工事が行われており、数年後の春、桜とのセットで、この道もそぞろ歩きしたくなった。
R361の東端は、昨日、北上してきたが崖崩れで通行止めになっていたR152に接続している。
何が起きるのか分からないのが気ままな旅で、この「行き当たりばったり」な時間の経過を楽しんでいる私に気付いた。
この「行き当たりばったり」の類語を調べたところ、計画性がない、段取りがない、その場その場の、見通しが甘い・・・などのネガティブな表現が多い。しかし、それを逆手に取って、思いもよらない楽しみや驚きとの出会いもあり、これからも、そのスタイルで、じっくりとゆっくりと味わってゆくことだろう。
R361からR152に入ってからは、予定した北上はすぐにせず、少し南下してみることにした。
坂を上り始めると、忽然として出現したのは「美和ダム」で、天竜川水系の三峰川(みぶがわ)に建設されたかなり大きなダムだ。
道なりに急勾配の坂道を上って行くと、ダムの上部の端に差し掛かり、駐車場に「ジル」を停めて、ダムの天端(てんば:ダム堤体の一番上部)を歩いた。いつもそうだが、ダムの天端から下を覗くと、その高さで目が眩み、下腹がムズムズする。
パラモーター(モーターパラグライダー)の「空の散歩」は私の趣味のひとつだが、飛んでいて眼下を見下ろしても、そうはならない。しかし、建造物の上から下を見下ろすときは、なぜか、そうなってしまう。よく分からない感覚だ。
その少し先の道の駅「南アルプスむら長谷」の駐車場に入ったちょうどその時、昨日の「こまくさの湯」の駐車場で会話した夫婦のキャンピングカーが出発しようとしていて、手を振ったところ、奥さんが気付いてくれて、手を振り返してくれた。
道の駅の駅舎に入ると、パンの酵母の良い匂いがした。この道の駅の「売り」はこのパンのようだ。
店内を見て回ったあと、同敷地内にある「南アルプスビジターセンター」に入った。南アルプスを紹介する展示内容だった。館内のスタッフの方と少し話をしたあと、南アルプスの山のカードを9枚も頂いた。残念ながら、その中には登頂したことのある北岳と間ノ岳のカードはなかった。
約20年前の2回目のキャンプツーリングでは、R152を北上し、幾つかの峠の手前で途切れた国道の替わりの林道で越えることができ、崖崩れもなく、この道の駅にたどり着き、周辺の公園で、テントを張って泊ったことがある。
その公園を見たくなり、道の駅から見渡すも、道路や道の駅の周辺の様子が変わったことで、すぐには分からなかったが、あちらこちらを探して、道の駅の第2駐車場の奥に見つけることができた。
公園の除草作業をしていた高齢の男性がいたので声を掛けて、以前ここで、テントを張って泊ったことなどの話をした。彼から、ここは「南アルプス公園」ということを教えてもらったものの、南アルプスの周辺には、この名称を持つ公園は幾つもあるのだろうと思ったが、彼には言わなかった。
今朝の「駒ヶ根高原のキャンプセンター」は、私の初めてのキャンプツーリングで泊った場所で、今、目の前にしている「南アルプス公園」は、2回目のキャンプツーリングの1泊目の場所で、偶然にも、私のキャンプツーリングのテント泊の歴史の最初の部分に再会したことで、そのときのことを少し思い出していた。
ちなみに、2回目のキャンプツーリングの2泊目と3泊目は、長野市内の善光寺に隣接している公園、そして安曇野の北アルプスの麓にあるキャンプ場だった。今後、その場所との再会もあるのだろう。
これまで行ったキャンプツーリングのことを振り返ってみると、3回ほど行ったような気がした。
当時は紀行文を書いていなかったので、詳しい振り返りはできないが、デジカメで撮った写真だけは、しっかりと保管していたので、久し振りに、PCの画面で見たところ、驚いた。全部で7回も行っていたのだ。
記憶がかなり希薄になっていることに唖然としたが、約20年前の、まだ若かった頃の自分自身に再会でき、あそこにも、ここにも、ツーリングで行っていた記憶がよみがえり、頭の中で、その時の点と点が繋がって行く面白さを覚えた。
加えて、この数年の間にキャンピングカーで行って、初めて見たと思っていた風景が、以前のキャンプツーリングの際に見ていた風景だったことが分かり、驚きながらも、そのことをすっかり忘れてしまっていた自分自身が情けなく、多分、季節の違いで、同じ景色でも、異なる景色に見えるものだと、自分に言い聞かせたものの・・・、やはり情けない。
作品名:悠々日和キャンピングカーの旅:⑪信州の旅 作家名:静岡のとみちゃん