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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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ウィタセクスアリスー言の葉の刃

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 ま、先生が懸念したようにその人ともそれ以上どうにもなりませんでしたけどね。まあ人生色々ありましたが、結論として、やっぱり先生は一般男性の平均値とはかなりかけ離れていたってことがわかりましたよ。他の男はあそこまでやばい言葉は言わなかったし、表裏の落差も少なかった。それに気づけただけでも、他の男性と関わってみた意味があったというものです。先生しか知らなかったら完全に調教されちゃってましたよ。もう洗脳ですよ。
 
 そもそも当時の私、幸せになりたいとか思ってませんから。人生どうでもいい状態に陥ってました。だって私にとっての幸せは好きな人と一緒にいたいってことですよ。それ裏返せば、誰かを不幸せにしなければ成立しないじゃないですか。
 自分の幸せは他人の不幸の上にしか成り立たない、逆もまた然り。誰かが幸せであるためには誰かが不幸を引き受けるしかない。ならば私が不幸せを受け止めるしかない。私が幸せを獲得したところで手放しで喜べやしない。なら、自分が不幸せなほうがまだまし、って思ってましたから。三角関係は一角が消えれば問題解決ですもの。私がいなくなれば丸く収まるんですから。生きることへの執着も薄くなるというものです。
 これは怖いもんなしですよ。横断歩道歩いてて左折車が突っ込んできても轢かば轢けってよけないし、ホームに立ちながら特急が来るタイミングで貧血でも起こして線路に転落すればいいのにとか思ってました。
 でもそんな事故が起こる代わりに、ぼーっと歩いてるからか、サークル装ったり、占いやってる風に見せかけるけど本当は統〇教会的なものだったんじゃないかと思われる人に、よく声かけられたりしましたよ。
 まあ誰かとなんか話したかったんですかね。暇つぶしについて行ったら、学生だった頃は代々木の雑居ビルで、ダビングしすぎてざらざらのアダムとイヴの超つまんない講義ビデオ見せられましたよ。これが原罪です、人間は皆罪びとなんですよ、って言われてもだから何?って感じで。秋川渓谷での合宿に誘われましたがこんなものに参加したら洗脳されるだけなので丁重にお断りして、お茶とケーキ頂いて引き上げましたけどね。
 社会人になって自分の状態がさらに深刻化したタイミングで声かけられた時は、占い屋の店舗に連れていかれて姓名判断受けたり、感応遺伝がどうたらいう話を聞かされました。なんでも純血種の犬が一度でも雑種の子を産んでしまうと、以後、雑種しか生まれなくなる、とかいう話で。婚前、黒人と付き合ったある女性が日本人と結婚後、肌の黒い子供が生まれたとか。「血が混ざっちゃうんですよ、怖いですね」って混ざるかそんなもん。混ぜたら凝固するわ。前カレの子ができてたってだけでしょ。ちゃんと避妊しろっての。犬だって隔離してるわけじゃないんだからどこで交尾したかわかるわけないじゃん。産んだら、って言ってたけど、産まなかったらいいわけ?結婚するまで誰ともヤルな、って主張らしいけど、むしろ複数と付き合って感応遺伝とやらを混ぜちゃえばわかんないんじゃ?それに男はどうなの?前カノの感応遺伝はないわけ?それずるくない?そもそもコンドーム使ってたらどうなの?とツッコミどころ満載だったんですが、成り行きでついお高い買い物してしまったりして。これはやられたな、とわかったけど、私を勧誘した女の子も上に言われて営業しなきゃなんないんだろうな、とか、まあ、こんだけ金使ったんだからもったいなくて死ねるかってなってこれで自殺を回避したと思えば、命の値段だと思えば安いもんか、とか思って自分を納得させて。
 余談ですがこの感応遺伝とやらを後にネットで調べたらテレゴニーというらしいですね。かつてはナチスなどにも差別的に利用されたりして否定されたものの、近年の研究で胎児のDNAが母体に残ることがあるとか精子が女性生殖器の細胞に入ることがあるのだとか。ならやっぱりコンドーム使えば解決なのでは。
 で、以後、金がなんぼのもんかい、と思うようになりましたね。あの人らは怪しい宗教団体かもですが、「お金は人のために使うんです」って言葉はけっこう納得したんですよね。彼らにすれば「自分ではなく団体のために使う」ってことなんでしょうけど。そんなのもあって、ほんとに執着がますます薄れて、おそらく世間の皆さんはなかなか手放したくないような、培ってきた地位や立場を捨てるとか、ボーナス前に仕事を辞めるとか、安定した職や婚姻関係を放り出すとか、そういうの全く抵抗がなくなって、けっこう大胆なこと平気でやっちまうようになりましたよ。他人が見たら危うく見えて怖いかもしれませんねえ。

 こうやって話していると過去のいろんなことが芋づる式に思い出せてきたのに、先生との楽しい記憶があまりないような気がします。そりゃあ恋をしてたから、先生に電話や手紙をもらったら嬉しかったし、わくわくしたりドキドキしたり、キュンキュンしたりしてたはずなのですが、年月を経て、やけに刺さるエロ言葉以外の記憶が残っていません。
 一回くらいは食事もしたでしょうけど味がしなかった。きれいな景色も見た覚えがない。だってデートっていっても、目的は体を合わせることで、それ以外の食事したり遊びに行ったり、なんていうことは一切なかったんだし。そんな時間もタイミングもなかった上、露見する危険のある行動はすべてNG。ドライブしてたって安全エリアにでるまでシート倒して私は存在しないことにしてたしね。一緒にいられるのは数時間。
 だから、記憶に残ったのは私を傷つけた言葉だけだった。逆に言葉って一度刻みつけたら焼き鏝を当てたがごとく刻印を残すものなのですね。だから私の背にはたくさんの焼き鏝の跡があり未だに血をにじませているのですよ。先生は私を蹂躙し、私の心に何度も何度もナイフを突き立て、私をズタズタに切り裂いた。それでも、血まみれになりながらも私は先生を愛していた。こんなに愛しているのに、どうして、っていつも思ってた。
 
 ああ、今更ながらわかってきましたよ。「へっへ、お前は今俺に犯されているんだぜ」とか「オラ、俺のおもちゃにされている気分はどうだ」くらいに乱暴な言葉にすると、これレイプしてる時に言うセリフ以外の何物でもないですね。私は好きな人に抱かれていると思っていたけれど、先生の頭の中は完全にレイプしているモードだったんですね。そうよね、考えてみたら一番最初からそのモード全開だったんですよね。だから私はあれほど混乱していたんだ、と妙に腑に落ちました。
 やるせない気持ちが後々までも残るのはそのせいだったか。変なこと言われる度に泣きそうな気分になってたけど、そりゃそうよね、レイプされかけてんだから泣きそうにもなるわ。やれやれ、何だったんだろう、私の恋って。物理的な暴力は(頭押さえつけられた程度で)受けていないけれど、先生は頭の中では完全に私を強姦していてそれは心理的な暴力だった気がしますよ。
 高度なテクですねえ。合意の上で精神的に強姦するなんて。そこまで読めませんでしたよ。最初からそうだったのに私ってば今頃気づくとはおめでたいことです。さすがエロ師匠は思いつくことが違うねえ。