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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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ウィタセクスアリスー言の葉の刃

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 昔、何度か中絶をさせられた愛人が本妻の子供を焼き殺した痛ましい事件がありましたよね。「子供の供養」と言いながら灯油をまいたとか。怖いけれど悲しい事件です。
 この愛人をここまでの狂気に追い込んだ男にかなり責任があると思いますけどね。彼らはなんでちゃんと避妊しなかったんでしょう。この愛人も自分の子は何度も闇に葬られているのに本妻の子が生き延びているのに耐えられなくなったんでしょうね。殺人はあってはならないことですが気持ちはわからぬでもありませんよ。
 この男、その後どうなったんでしょうかね。どうにもならないか。夫婦仲はダメになったかもしれませんが法で裁かれない上反省もしそうにない性格でしれっと生きているのかもしれません。こういう男、宮刑に処してやればいい…。
 
 ま、どのみち先生は私を愛していないんだし、大丈夫、私は手に入らないものは欲しがりません。得られないものはもともと私が欲しくないものですから。
 ただ、内心決意していたのですよ、万が一しくじった場合、子供と心中する覚悟をもつと。大げさに聞こえるでしょうけれど、私はこの恋に命を懸けていたといっても過言ではありませんよ。世間の皆様のようなデキ婚なんてあり得ないんですから。私生児を産む以前に妊娠自体が、先生と関わってた自体が発覚しちゃまずいんですから。世間は狭いんですから。
 だから死後司法解剖されないような妊娠が発覚しないような自殺の方法がないものかといろいろ考えてきました。当時たまたま雑誌で航空機の墜落現場写真を見てこれだな、とか思いましたね。燃え尽きて何も残らない。だから私と同乗する人々には申し訳ないんですけど飛行機に乗りたいな、と。そういえば主人公以外自殺志願者ばっかり乗っている機上で事故が、という話が星新一にあったような。それで、実際外国に行ってみたら、物理的な距離があると狭い日本でのごたごたなど大したことじゃない、と思えるようになりました。異邦人としてなら、愛人的立場の人間が見たら辛いどんな光景を目にしても現実感が希薄で、映画をみてるようだったから。だから、日本で目にせずにおれない辛い光景(つまり電車の向かいの席にいる楽しそうな家族連れだの、親子が戯れる午前中の公園だの)に日常的に出会って精神が破綻して変な真似をする前に脱出してました。
 そういえば先生「いつかパイプカットしようかと思っている」とかちらっと言ってましたよね。さっさとやってくれてれば良かったのに。そうしたら私、妊娠に関してこんなに悩まないで済んだのに。
 
 以前お話したかもしれませんが、事態を打開すべく他の男と寝てみたことがあります。その男がかつて人妻に惚れた経験を持っていたというから、私の気持ちを分かってくれるのではないかと期待して、そういう相談なんかしてしまって。
 そしてその人とドライブしたら行きついた場所がホテルで、「そうか、車に乗ってしまった以上大人的にはこういうことを意味していたのか」となんか成り行きみたいな感じでそうなってしまったんですけど。ただ、先生に好きと言ってもらえない私は男性に好きだと言われると靡きやすかったのは認めます。何かきっかけを作りたかったのもあります。
 私は裏切り者ですか?先生に私を非難する権利はないですが、それより私が重くなっていて、私が他の男に気持ちを向けてくれたほうがむしろ気が楽になったんじゃないですか。私から別れたいと言わない限り、先生は私に別れようって言わないでしょう。年に2.3回でも普段はできないことを楽しめるはけ口として私はキープされてたんですもの。
 私は先生との状況に疲れて誰かにわかってもらいたかったんです。まあその男は私とそうなった後も、他の女性をもホテルに誘うような単なる浮気常習者だったからバカなことをしたのですが。先生との泥沼から脱出したくて、差し伸べられた手をつかんだら隣の泥沼に叩き込まれたようなもんで、事態は悪化しただけでしたが。
 ただね、当たり前ですけど、他の人だと違うんだってことはわかりました。そのろくでなしのほうが、まだしも先生よりはまともな扱いをしてくれたってだけで、そもそもの基準が低い私はまだマシだとさえ思ったのは事実。
 そんなだから一度寝てしまったために妙な執着が生じて、一年近く放置されたあげくにまた誘われて会ってしまったりして、ほんとバカですよね。あの時期が人生最悪の黒歴史ですよ。色々あってブチ切れて別れましたけどね。
 その頃に人妻に惚れて悩むような人の相談にのったらその人が逆に私に惚れてしまって私と結婚したがったことなんかもありました。あ、その人とは一線こえませんよ。私ももうややこしい恋愛に疲れて、余計ややこしい関係になりたくないって言ったから、一線超えない健全なデートをしただけで。
 話がそれますが、最近になって読んだ本に、女の脳は共感を、男の脳は解決を会話に求める、とあって、上記のことを思い出したんですよね。
 私は先生とのことは女友達にも誰にも話すことはできなかった。先生の信条に感化され自己責任だと思っていたから、これだけは話せなかった。結果誰とも共感を得ることができなかったから、人妻に惚れた男に共感を求めてしまった。
 そこがそもそもの間違いで、前者は共感するふりをして私とヤリたいだけだったし、後者は共感ではなく同情し、それを解決しようとして私と結婚したいと言い出した。私は共感してもらえればそれで充分だったのに。これは脳の違いだったのね、と思いました。当時あの本を読んでいたらよかったのだけれど…。
 ま、所詮私は先生には最初から捨てられていたも同然で、先生はそれを時々拾ってくれてただけですものね。打ち捨てられてる私を他の男が気まぐれに拾ったってだけのことですよ。
 
 で、そのあたりでやっと先生への執着が消滅したんで、別れましょう、とお伝えしに行きましたよね。そのしばらく前に先生と最後のデートをしましたが、その時初めて、帰りに人っ子一人いない遺跡公園的な場所をちょっと散歩したりしましたね。小高い丘に登ると青空と緑の草しかない透明な卵の中のような空間を、何もかもを晒していくような風が吹き渡っていました。二人でお天道様の下で外を出歩くなんて最初で最後でしたね。流木が海水に漂白されていくように私の気持ちが風に晒されて乾いていき、先生への執着みたいなものが燃え尽きた灰のように手のひらからサラサラ零れ落ちていくようでした。真空に吸い込まれていく終わった恋の灰を私は冷めた目で見ていたように思います。
 その時は私も自分の気持ちを確認するのが目的でしたが、別れ際にキスした時、つくづく「もうたくさんだ」と感じ、別れにこれまでのような身を裂かれるような辛さを感じなくなって、「ああ、これで大丈夫だ、私はこの人と別れられる」って思ったんですよ。26歳くらいだったと思うけど、10年越しの恋が憑き物が落ちるようにす、と消滅した瞬間です。一線超えない人をちょっと好きになっていたのもあるんでしょうけどね。