ウィタセクスアリスー言の葉の刃
詰まるところ私は愛人というより、今でいうセフレですか?セフレとしても初心者向けじゃなかったですね。否、セフレならまだ対等ですよ。私はそれ以下、奴隷とまではいいませんけど実験台みたいなもんだったですよね。
ご自分で言ってたでしょう。私が「奥さんにもこういうことさせてるの?」って聞いたら、「こんなこと奥さんに言えないもんな」って。奥さんに要求できないあんなことやこんなことをすべて私に要求してきたでしょう。私はあんなことやこんなことの実験台で。正直それ腹立たしいところです。私を贄にして。差別じゃないか、ってちょっと思いましたね。
私だけに本音をさらけ出してくれたのはありがたいとしても、圭房でのあれこれはそれこそ初心者より経産婦に頼んでくださいよ。ああ、そうか、男を知らない小娘をいたぶるからこそ面白いんですよね。いっそう興奮するんでしょ。だからダークサイドなんだって。先生が私に見せてきた暗黒面。大体先生のほうだって、十数年前は童貞だったでしょうにどこであんな悪い顔することをを覚えたのか。結局私は先生のむき出しの欲望を受けとめるために選ばれた贄ですものね。先生に惚れたって時点でご自由にお使いくださいってことだったんですよね。
あのね、知らない男にああいうことされたらもちろん絶対嫌だけど、変な奴が変なことするのはある意味当然なわけ。逆に尊敬し絶大な信頼を置いて大好きでたまらない人にああいう風に扱われるというのは別の意味でショックだったんですよ。
最初のデートの帰り際に「こういうのも変だけどメシ代の足しにでも」とくれようとした1万円は一体なんだったんでしょうね。たとえメシ代でもそういう場面で金銭のやり取りは抵抗がありますよ。初物の対価ですか?私は自分を売ったわけじゃない、と断固拒否しましたが私の対価じゃ安すぎだし、実験のアルバイト代にしてもどうでしょうかね。メシ代よこすくらいなら、一緒に食事くらいしてくださいよ。それができないから金出したんだと思うけど、あんなことするくせに変なところで妙にビビりなところがまたムカつきます。
以上が私の三年越しの片思いが成就した経緯です。なんだこりゃ。ところがそれでも、結果的に私は先生をさらに好きになってしまっていました。百人一首に「あひ見ての後の心にくらぶれば昔はものを思わざりけり」というのがありますが、この歌が心底から理解できました。片思い時代の辛いと思った三年間なんかなんてことなかった、一度深い関係になってしまったらさらに想いが募ってしまった。しかも罪悪感やら結局遊ばれてるだけなんだろうかという不安や、とにかく問題が複雑化してストレスが10倍増しくらいになってしまったんですよね。
そりゃあね、惚れた相手とのロストヴァージンなんてとても幸せなことなんでしょうけど…私に恋愛の経験値があればもっと許容範囲が広かったんでしょうが、いかんせん高校生程度で恋愛経験などありませんよ。先生が初めての恋愛対象なんだから。私は全くおマセさんではなかったので小学生当時から誰それが好きだのなんだの言ってる友達にはついていけなかったんですよね。とかいってこんなことしたんだからマセてるのか。ああ、そうだ、同年代には全く興味が持てなかったってことです。彼らは私にとっては男じゃなくて男の子、対象外だったんで。そういう私の指向が不幸を招く元凶だったんですねえ。
そもそも先生は「奥サンとうまくいってる時でなければ逆に浮気なんかしない」って言ってましたよね。つまり夫婦関係がうまくいかないからと他の女に逃避するようなことはしない、と。
なんだかどっち転んでも浮気する時はするように聞こえますが、ドラマなどでよく聞く「妻とは何年も冷え切っている、ゆくゆくは別れて云々」なんて嘘くさいセリフ言うよりはまだいいです。
それなりに当時の私は評価してはいたんですよ。(じゃあ私は一体なんなんだ、絶好調の時だからこそ遊ぶ相手か?不仲になったら別れるのか?という問題は措いといて)そのおかげで私はそれまでに散々馴れ初めから何からお惚気ともいえる話を聞かされ、知りたくもない情報を記憶してしまいました。それらがその後私にもたらした苦痛がどれほどのものか、先生は考えたことがありますか?そのせいで私は過去への嫉妬という無意味極まりない苦痛を味わうはめになってしまったんですから。
だから当時は私がもしタイムスリップできたら、独身時代の先生に出会いたい、って思ってました。広瀬正の「タイムマシン」みたいに、過去に暮らし好きな人の子供を産んでいたらいいのに、とか思っていました。でも今は先生と私が関係持つ前に未来の私が行って、先生に女の子の扱い方を徹底指導したいです。
あれだけ読書家なんだから渡辺淳一あたりの恋愛指南本でも読んでいてくれたらよかったのに。当時はなかったっけ?そういう本には大抵、女性には優しく接しろとか焦りすぎてはだめとか書いてあるでしょうに。その辺の官能小説ですら「痛かったら言ってね」なんてお優しいセリフを吐いてるじゃないですか。先生もそういうの読んで学習しといて欲しかったですよ。私そういう場面読むと、ああ、私は言われなかったなあ、なんて思いだして悲しくなるんですから。
そもそもそんなに愛妻家なら浮気しなきゃいいじゃない。ていうか、私は浮気対象未満のダッチワイフ程度で人間の女として扱われてなかったってことですか?
一度私が「万が一奥さんにばれたらどうするのか」と意地の悪い質問をしたことがありました。先生の返答は「遊びだった、と答える」でしたよね。そうですよね、最も妥当な答え方ですよ。そして便利な言葉ですね。「女遊び」ってものが社会通念上認知されているってこと自体がバカにしてるけど。じゃあ浮気した女性も「ちょっと男遊びしただけよ」で通るんですかねえ。でもやっぱりそういうのを男は許したがらないんでしょう。ずるいですよ。江戸時代じゃあるまいし避妊もできる現代なら通して欲しいものですよね。
男の浮気は種をばら蒔こうとする古い脳の本能だから仕方ない、とかいうけど、ばら蒔いたところでやたら妊娠させたら男だって困ったことになるでしょうが。男相手の風俗がたくさんあるのは男を射精させる方が簡単だからですよ。高級なものからお手軽なものまでバリエーション豊富。客が女の場合、射精、みたいなはっきりした結果がないし、個人差も大きいし、相手を満足させるにはそれなりの技術や体力を要するから誰でもってわけにもいかず、簡単には商売になりにくいのでしょうね。ま、女性専用風俗っていうのもあるにはあるみたいだから金持ってる女が増えればそういうものも増えるでしょうけど。(金と勇気があれば一度くらい行ってみたいものです)
作品名:ウィタセクスアリスー言の葉の刃 作家名:ススキノ レイ