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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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ウィタセクスアリスー言の葉の刃

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 彼女が俺と付き合っていた期間は彼女の20代を半分以上蝕み、その後も彼女は結婚に至らない男とのセックスレスの付き合いで何年かを浪費したようだ。俺の頭の中に所々黒ずみ朽ちていく彼女の裸体が浮かび息苦しいものを感じた。
 視線をもどした彼女は
 「そうですねえ、私と先生の関係って、遊女と馴染み客みたいなもんですよね」
 俺の方に向き直りと唐突に言った。
 「なんだいそのレトロな例えは」
 「遊女が馴染み客に惚れたところで、客は客。金払って遊びに来るだけで遊びが終われば帰る。客はその遊女以外とは遊ばないものの、いつ来てくれるもかわからない。客もたとえ惚れたとしても身請けするような金はない。他の誰かが身請けしても傍観するしかない。そんな感じ。ただし、私のところに他の客が来ることはまずないんですけど」
 「まあ確かにそんな状況ではあるね」
 「先生にとって一ついいのは遊女は金がかかるけど私ならタダで遊べたってところ」
 「そうかもしれないけど、俺が金を出したら嫌だろう」
 「まあね。あの頃の私じゃ受け付けなかったわね。いっそパパ活として割り切れるくらいならあんなに苦しまなかったんだけど」
 「どのみち頻繁に会うわけにいかないんだから稼げやしない」
 「そりゃそうだわ。実はね、先生と私のお付き合いは正味8年間なんですよ。この前記録のメモ見つけちゃいましてね。長いように見えてその8年間にデートした回数がたった17回だったんです。これって週末だけデートする恋人たちの半年分にも満たないんですよね。それこそ稼げやしないわ。私の中では人生を変えるくらいとても濃密でヘヴィーな時間だと思っていたので、これは我ながらショックでした。たった17回。しかも数時間程度。お泊りは無し。これだけの希薄な付き合いだったんだ、と。8年もかけて4か月付き合って別れちゃった恋人、ってレベルですよ。週2回会う恋人なら2か月分。「ナインハーフ」って映画があったけど、その9週間半より少ない。まああの恋人たちは毎日のように会ってたみたいだから比較対象外か。そんなものが、どうしてこんなにも私の心に重く深々と突き刺さっていたんだか。ふざけるなって感じですよ」
 彼女は一気にまくし立て、最後は少し涙声になった。
 「数えたこともなかったんだが、そんなものだったのか」
 「そう、だから私は先生と別れた後の人とはしてないんだし、30歳までにセックスした回数自体20回に満たないのよ。先生とは毎回2.3回してたとしても一応デート一回分にカウントするけど。こんなのじゃ性感の開発とかありえないわけで」
 8年間に17回しか会っていなかったとは俺も思わなかった。計算すればそんなものなのだが、俺ももっと濃い付き合いだったような気がしていた。俺にとっても彼女の存在はそれなりの比重を占めていたし、彼女と会うためにコース決めやら言い訳を用意したり、妻との行為をセーブしたりして、怪しまれない程度に彼女のことでいつも頭がいっぱいになっていたのだから。
 
 「さっき言ったセックスを懲罰だと解釈するような倒錯、のせいか、頻度の問題か、私は週に一回以上会えるような恋人ができるまで、セックスが楽しいとか気持ちいいとか、思ったことなかったですね。8年かけたって年に2回じゃ無理でしょ。これじゃ馴染み客ですらなかったですね。さっきのたとえ話は撤回です」
 「いつも俺ばかりが楽しんで悪いなあとは思っていたよ。彼氏ができて楽しめるようになったならよかったけど」
 「先生は当時の私にはそもそもサイズ不適合だったんですよ。さらに頻度の問題もあるけど、それより態度かなあ。その若い彼氏は私にべた惚れだったからラブメイキングの時、私に対して脅したり責めたりしないし、いつも笑顔で私といることが心底嬉しそうだったから、私も楽しい気分になったんだと思うわ。あ、人生色々から省略してたのにまたうっかり話してしまいましたね」
 「俺は嬉しそうじゃなかったか?」
 「ああいう時の先生の笑顔は、単純に私に会えて嬉しい、という感じではなく、何か企んでそうで不気味だった。舌なめずりしてそうで」
 言われてみれば俺は彼女と会った時、さて今日はどう楽しんでやろうか、みたいなことを考えていたかもしれない。いつも緊張感があったうえ、限られた時間内で目的を果たすことだけを考えていた。言葉責めプレイもしたかもしれない。耳が痛い。
 
 「そうだ、考えてみれば私、先生と別れて6年後に出会ったその独身の彼との行為が、人生で初めての性欲処理じゃない愛のあるセックスだったんですよ。初体験から14年目にしての初、愛に基づくセックスです。だから心置きなく楽しくできたんですよ」
 彼女はため息をついて再び天井を見上げた。
 ちょっとショックだった。俺とは愛のないセックスだったと言われればその通りだったかもしれない。なのに俺と別れた後も数年間、彼女はろくでもない男としか出会えなかったのか。俺とのことがかなりのトラウマになっていたのだろうか。俺は確かに彼女を心から愛していたとは言えないのだが、それがトラウマになるほどのものとは考えもしていなかった。彼女にとっては愛のないセックスを、俺は毎回強要し続けていて、そのことが彼女に一種のトラウマを植え付けてしまっていたのか。
 
 「俺は君の時間をかなり浪費させてしまったようで済まなかったね」
謝るしかなかった。
 「まあ、先生にとってはあのくらいの頻度なら、後ろめたさを感じにくかったんじゃないんですか。奥さんに隠れて風俗にいく人程度のもんだったんじゃないですか?」
 確かに俺は彼女と会う前後にはものすごく後ろめたさを感じていたが、しばらくすれば思考回路は完全に日常に戻り、年に2,3回会うだけの彼女のことを普段はあまり考えてはいなかったかもしれない。
 
 「私は結局風俗嬢ってとこでしたか。遊郭の女郎の例えはあながち使えないこともないですね。他の男に使いまわされない衛生管理万全の風俗嬢、いいですねえ」
 「そう責めないでくれ」
 「私は先生にとっては風俗嬢程度だったかもしれないけど、もうちょっと、愛の感じられる扱いをしてくれてもよかったんじゃないですかね。いっそ先生が最初の男じゃなくて最後の男だったらよかったと思いますよ。タイムマシンがないと無理ですけどね。ダブル不倫の相手だったらお互い恋愛無用、愛の言葉も不要で即物的な繋がりを楽しめたと思いますよ。先生の持ち物は大変ご立派で、初心者より経験者向けでしたしね。今の私ならあの頃の先生の言葉責めにゾクゾクして興奮したと思うし、あんなものでガンガン突かれたらそりゃあ刺激的でほんとにいっちゃってたかもしれませんよ」