小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ウィタセクスアリスー言の葉の刃

INDEX|17ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

 「ですよね。だから本来はそこで他の女を口説く前に、自分らが話し合えよって思うんですけどね。話し合いが不調だったのかもね。まあ奥さんにしてみれば仕事も家事も子育ても忙しくて、とてもそんな気になれなかったんじゃないですかね。それは私もわかりますよ。男も何日おきに要求したのか知らないけど、頻繁に言われたらそりゃあ面倒臭いですよ。日々ただでさえ寝不足なのに。ただ生理的に無理ってなったらやっぱり難しいでしょうね。
 そういうの、一か月なければレスなのか一年だとレスなのか、人によりますしね。でもね、それってもし10回に6回くらい奥さんが応じてあげてれば、発生しなかったんですかねえ。だとしたらその回数如何で私がえらい面倒事に巻き込まれたんですよ。奥さんも疲れて無理とか事情を説明して頻度を下げてもらうとかなんとかして、半分くらいは夫の求めに応じてやればよかったと思うわ。私それがあったから、結婚してからどんなにかったるくても夫を断ったことないんですけどね」
 「そりゃあいい奥さんだ」
 「ていうか、最初からそういう方向に行かないように先に寝ちゃうとか、少なくとも断ってはいないよね、という感じで回避したりしましたけどね。まあそんな事情だったのでその人の件では辛いとはいえ、罪悪感はあまりないです。もとはと言えば他の人に惚れてたはずなのにいつの間にか私にシフトして、私のあずかり知らぬところで私は奥さんに恨まれることになって。ただ私、男性から惚れられる経験がなかったもんで、ついその人には情をほだされ、いつの間にかけっこう好きになってました。でも同じ轍は踏みたくないから、一線を越えない約束で。お預け食らわせてた状態だったのがかえって余計執着されたかもしれません。先生みたいにあとくされないのと違って、その後、別れてからも未練がましく連絡とってきてたもんで、嫉妬深い新しい彼氏が『いい加減にしやがれ』的な手紙を送りつけたとかで、それで止まったんですけどね。惚れられるのも善し悪しです。あ、いけない余計なことしゃべっちゃった」
 「それはなかなか大変だったね」
 まあ、その男にしてみれば彼女を抱ける日をずっと待ち続けていてやめるにやめられなかったのか。肉体関係を持たなかったが故、後ろめたさも感じずに会うことができるからそれを続けたかったのか。話を聞いた限りではあと一歩でストーカーになりかねないと思うが。まあ俺がとやかく言える立場ではない。
 
 「さっき99%って言ったのは私が先生に惚れたケースを想定しましたけど、本当は五分五分ですよね。だって男がその気にならなかったら性行為って成立しないじゃないですか。女がどんなに頑張ったって男が勃起してなきゃできないでしょ。ただね、それはあくまでも成人同士の話。あの頃は自分を責めてましたが、この年になって考えると、もし今の自分の夫が18の女の子と関係してあまつさえ処女を頂いたなんて知ったら、『この泥棒猫!』みたいな子供じみた嫉妬はしないですよ。それどころか『うちのバカ亭主がとんでもないことをして申し訳ございません』って謝っちゃうわよ。だって大人同士ならともかく18なんてほんの子供じゃない。五分五分どころかそれこそ99%大人の男が悪いわよ。なんてことしたんだ、って亭主をぶん殴るわ」
 「ああ、俺が99%悪いと思ってるよ。確かに大人と子供、しかも教師と生徒という関係は対等とは言えないからね。同年代ならともかく、はるかに年上の大人相手じゃ責任の配分は同じとは言えない。俺は殴られて当然だ」
 「先生の奥さんは殴らないでしょう。生徒に手だしたのは怒るかもしれないけど、浮気そのものについては先生は精神的なものは一切なしの体だけの遊びに過ぎないって言い切るわけだから」
 「うちの奥さんがそれで納得するとは思えないのだが」
 「まあ、納得はできないでしょう。ただ亭主が犯罪に手を染めた、的なショックが通り過ぎた後は、亭主が平謝りすればきっと普通の女性は浮気自体は、精神的に入れあげてさえいなければ、ぎりぎり許せるんでしょう。私は自分の経験上、体だけの遊びってほうがムカつくんですけど。ま、私が特殊なんですよ」
 「今、ムカつくわけだね」
 「そう、あの頃甘んじて受け入れ自分を責めてた自分にね。なんであんなに自分を責める必要があったのか。ああ、これはね、思い当たる節があるんですよ」
 「思い当たるとは?」
 「先生はよく自分でノートに書いてた信条を私たちに語ってたでしょう。とくに、あるゆることが自己責任みたいな話を」
 「ああ、確かにね」
 「それ、一般論ではいいけど、私に対してはちょっと別の意味を持ってくるって気づきましたか?」
 「さて、なんだろう」
 「それ聞かされてた私は無意識に、先生と寝たのは私の自己責任、私が好きになった以上自己解決するしかないって思ったんですよ。つまり『お前が俺に惚れたんだ、何されようと文句はないな』って言われてるようなものでしょう?」
 「ああ、そういう言い方すると脅迫しているようだな。でも当然俺も自分のせいだ、って思っていたよ。俺のせいで君はボーイフレンドを作れないのかもしれない、とか、君に恨まれても仕方ない、って思っていた。もっと俺に話してくれれば良かったのに」
 「話す時間なんかなかったじゃない。それに自己責任、って教えた相手に言えないでしょうが。自分で全部抱え込むしかないでしょうが。自分が悪いって思ってるから誰にも訴えられないし、とにかくこの先生の語るお言葉の数々に私は無意識にがんじがらめになっていたんですよ」
 
 俺は確かに自分でこれと思った言葉を生徒たちに語っていたが、彼女にそういう作用をもたらしていたとは思いもしなかった。他の生徒だったら記憶にとどめないか、何かの時に思い出す程度で、常に縛られるなんてことはなかったのだろうが、俺に惚れていた彼女は逐一意識していたということか。
 
 俺は空になったカップをサイドテーブルに置きヘッドボードに寄りかかった。彼女が隣に滑り込み俺に頭を持たせかけてきた。俺は彼女の冷たくなった肩を抱き、引き寄せる。こういうことを、あの当時したことがなかったかもしれない。
 
 「私、もし過去に戻れたとしても、自殺の方法ばかり考えていた20代は二度と経験したくないですね」
  彼女は指で俺の鎖骨をなぞりながら言った。妙にくすぐったい。
 「そうか…今の記憶をもって戻ればうまくやり直せるんじゃないのか」
 「たとえ記憶を持っていてもすでに先生と関わってるからどうにもなりませんよ。逆に知識と経験を生かして先生とのセックスを楽しもうとするかもしれない。それやったらもっと深みにはまりますよ。先生は私のテクニックにドはまりしちゃうかもよ」
 笑う彼女をみて色々吐き出して少しは吹っ切れたのだろうか、と思う。
 あの頃に、今の手練手管を備えた彼女が相手をしてくれていたら、と俺はちょっと妄想した。一体どこで覚えたんだ、と追及してしまいそうだが。
 
 「この前ふと昔のアルバムを見て、20代の屈託なく笑う自分に涙が出そうになりましたよ。あんな若くて輝いたあの時期が人生で一番辛かったんですから」
 そう言って彼女は涙をこらえるように天井を見上げた。