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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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ウィタセクスアリスー言の葉の刃

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 「なんか話がやけに大きくなってきたけど」
 「性欲の話ですよ。暴力や性欲の犠牲になる女たちが昔から絶えないって話。私そういう女性たちにひどく共感するんですよ。女性にとって性行為ってけっこう人生に影響しますから。先生は私と初めてした時のこと、覚えてます?」
 「ああ、もちろん」
 「何月何日だった?」
 「いや、それは、卒業した後だから春だとは思うけど3月か4月か」
 「はずれ。ですよねえ、私以外そんなもん覚えてやしませんよね。ちょうど今頃ですよ」
 そうだったか。悪いがさすがに日にちまでは覚えていないよ。どんなことをしたか、も実はそれ以後の付き合いのどれかと混同しているし、実は初めての時と言われても記憶はあいまいだ。
 
 「まあ、いいや。私は恋愛してエストロゲン出まくって記憶力がバク上がりしてたんでしょうよ。受験生なんだから試験にでることを記憶してりゃよかったんですがね。あの時のことが忘れられないんです。だって『処女じゃないんだ、諦めろ』って怒られながらペニスを突き入れられたんですよ」
 「え、ちょっと待って、俺はそんなこと言ったのか?」
 自分ではああいう場面で何をしゃべったかなんて全く覚えていない。女ってものはなんでそういう細かいことを覚えていられるんだか理解に苦しむところだ。
 
 「ええ、多分興奮して思わず、なんでしょうけど。でも、奥さんと初めて寝た時にあんなセリフは絶対言わなかったでしょう。好きな女に言えるわけないですよね」
 「悪いが覚えてないのだが、俺にとっても初めての浮気で緊張していたんだ」
 「でしょうね。先生は多分、とても緊張していて無意識に高圧的な言い方をしただけだろうし細かいことは覚えてないんでしょう。はっきりしているのは、私が先生にとっての『好きな女』じゃなかったってことですよ。もちろん正妻と同じ立ち位置を求めたりしませんけど、せめて二号くらいには扱って欲しかったですね。私は奴婢か街娼か知らないけど随分見くびられていたものです。先生は覚えてなくても、私はその結果、なんだかセックスというものに、子供が怒られて頭小突かれるように、罰としてペニスが使われたみたいな印象が残ってしまって。私にとってセックスは罰で、だからそれは快楽ではなく苦痛をもたらして当然って思うようになってしまったというか。それでも先生を愛しているがゆえに好んで罰を、苦痛を受けいれたがる、みたいに倒錯してきてたような気がします。そして、私はその後性行為の場面で、男性が機嫌悪そうな態度にでると、その度に、最初の時のことを、私にとってセックスは懲罰だった、ということを思い出し、ますます忘れることができなくなった。なんか一種のトラウマです。とにかく一番最初に刷り込まれて以来、私は自分が納得するため、こういうのが好きなんだとか、これは罰なんだ、と思って受け止める、みたいな変な構図ができてきて、自分でも相当こじらせたと思いますよ。なんだかわけわかんないですね」
 そう言って彼女はベッドから抜け出し
 「ちょっとお茶でも入れましょう」
 とお茶の用意をしに立った。さすがに腹まわりはふっくらしているが乱れた髪がまとわりつく背中には妙に色気があった。尻も垂れていない。ああ、昔みたいにあの尻をつかんで後ろから犯してやりたい、と思ってしまう。
 彼女は俺の「好きな女」ではなかった?そんなことはなかったと思うのだが。彼女を憎からず思うからこそ、俺は彼女を求めていたはずで、彼女もわかっていると思っていた。とはいえ俺も欲望のままに彼女に甘えていた部分もあっただろう。何も考えずに思わずでた言葉なぞ軽く受け流してくれればいいのに、そんな風に根に持たれていたとは。逆に何も考えずに無意識に出た言葉だからこそ、真実だと見抜いたのか。自分の本音自体、俺自身がよくわかっていなかったのかもしれない。頭で考えた言葉には必ず取り繕う部分が混ざっているのだから。俺の中での彼女の位置づけなど考えたこともなかった。確かに妻とは別格ではあるが、婢でも娼婦でもない。彼女は彼女だ。俺にとっては大事な愛人、くらいには思っていたはずだ。少なくとも大事な生徒ではあったのだ。よくわからないがとにかく彼女がかなり屈折したのももとはと言えば俺のせいだ。不倫だったということや俺が例の信条で彼女に愛情表現をしなかったことも絡んで、複雑な思いだったのだろう。彼女のことだから何かを考えずにはいられなかったのだろうが、ここまでとは思わなかった。だからといって今更俺がどうすればいいというのか?
 
 サイドテーブルに自分のカップを置きベッドに腰かけた彼女は「熱いですよ」とお茶を差し出した。
 俺も半身を起こし「ありがとう」とカップを受け取る。そういえば喉がカラカラだった。
 「ちなみに伺いますけど、先生、私の後に新しい彼女とかいました?」
 「いや、いないよ」
 「まあそうですよね、私みたいなもの好きが言い寄ってこない限り、たとえ絶倫でも女性経験乏しく不器用で臆病な先生じゃ無理だろうとは思ってました。そもそも先生は愛妻家だし決して浮気性ではないですものね。なら、私のほうが場数を踏みましたね」
 「それも、俺のせいかな」
 「さて、どうでしょう。私の色々は怖いから聞けないでしょ。だけど一つだけ教えてあげる」
 なんだか恨みつらみを言われそうな気がして怖くなってきた。あの頃の俺は若い彼女を抱けることで完全に頭に血が上っていた。いやむしろ頭より下半身に行っていたというべきか。彼女にはカラダだけを求める不実な男に見えたことだろう。
 
 「色々の一部だけれど、あの別れる口実にした人、先生は疑ってたけど、その人が私と結婚したがったのは事実なんですよ。私に誠意を見せようとしてか、割と早々に奥さんにバカ正直に交渉して、相手に泣かれて頓挫しました。後からそれ聞かされて私はそんなこと望んでいないのに、早まって余計なことをしてくれて、私はもっと辛いですよ。本当にセックスしてなかったのがせめてもの救い、って思ってたけど、そうでもないんですよ。むしろ体の関係があるくらいのほうが誰かさんのように一時の女遊びだ、と言いぬけて配偶者を納得させることができるのですよ。真剣な恋愛だ、と言われたほうが、奥さんにしてみればショックは大きいんですよ。ましてやプラトニックなといわれた日にゃ手切れ金ではすまないですからね」
 
 そうだったのか。その男は本当に現状を捨てて彼女を得ようとしたのか。なら明らかに俺なんかより余程誠意があると彼女は思ったことだろう。でもその結果彼女はさらに辛い思いをすることになった。不実な男との割り切った関係のほうがましだと思うに至るまでに。彼女の恋愛は不幸のスパイラルに陥って、そのスパイラルの始まりが俺なのだが。