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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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ウィタセクスアリスー言の葉の刃

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 私が報復に来たと思った?恨み節のほうが長いって?言いたいことがあるならなんであの頃言わないのかって?言えるわけないじゃない。当時は私の理解を超えていてわけわからなかったから、もうスルーするしかないじゃないですか。もっと大人になってからあの時のあれはこういうことだったのだろうか、と考えるようになったのであって。第一記憶は長らく封印してましたし。別に恨んではいませんよ。私は恋が冷めただけで先生を嫌いになって別れたわけではないですよ。先生が他にどうしようもなかったのはよくわかってます。未熟な私がどうしていいかわからず一人悶々としてただけ。
 最終的に私が恕すって言ってるんだから、いいじゃないですか。これ以上のものはないでしょ。贖いたい、っていうならそれはどうぞ自己判断で。年々記憶力が衰えても、昔のことって忘れないものでしょう。明日になれば私の訪問自体も忘れてるかもしれませんね。どっちでもいいですよ。私への罪悪感と生きながらえても、私の許しを得たという安堵と共に来世へ旅立っても。ただ、生命維持装置の管引っこ抜くのは私が立ち去ってからにしてくださいよ。私は何もしていませんよ。自殺幇助も自分を殺す殺人教唆も。話しただけです。言葉だけ。言葉が凶器になる可能性はあるかもしれませんが、それ立証しようがないですよね。お互い様です。私が受けた刃は私をズタズタに切り裂いたけど私は自死の衝動を抑えてなんとか生き延びてきました。まだ判断能力が残っているなら先生の判断です。あらゆることが自分の責任って先生の持論ですしね。
 じゃあそろそろお暇しますね。さようなら。
 
 
 
 
 「427号室の患者さん、自分で装置の電源を抜いて絶命したんだってね。警報鳴って駆け付けたけど、間に合わなかったみたい。訴訟にならないといいけど」
 廊下の片隅で看護師が同僚に語る。
 「家族は病院側を訴えるつもりはないって話よ。面会にもろくに来てなかったし、息子さんも厄介払いだったんじゃないの。動けないはずだったから誰も見張ってなかったけど、最後の力を振り絞ったのかしら。家族に迷惑かけて生かされたくないって。どうやってそんな気力が湧いたんだか」
 「そういえば昼間女性が面会に来てたわよね」
 「そうそう、酸素マスクつけてて話もできないのにけっこうな時間いたでしょ」
 「喋ることはできないけど耳は問題なく聞こえてたはずじゃなかったっけ?」
 「そうね。話聞いてることはできたでしょうね。だからといって帰ってからだいぶたってるし、まあ関係ないか」
 「家族じゃなかったみたいだけど、なんだろ、前カノとか?」
 「どんだけ前の前カノよ?まあ、もめごとが起きなきゃいいわよ」
 そして彼女たちは仕事に戻っていった。
 
                                      
 
 
 
 第二部
 
 
 彼女から渡された封筒にはウエブサイトのアドレスらしきものが書かれたカードが一枚だけ入っていた。
 
 好奇心にかられてアクセスしたところ、小説投稿サイトだった。彼女が書いたものだろうか。読まないほうがいいのかもしれない、という予感はしたが、気になって仕方がなく、とうとう読んでしまった。
 頭から冷水を浴びせられた気分だ。今まで気にはかけていたが向き合うことを避けて生きてきたこもごも。それが今になって、目の前に突きつけられた。逃がさないぞ、と。
 
 
 まさかこの年になってから彼女と再会するとは思いもしていなかった。
 
 先日、俺は書斎で本を読んでいた。昔読んだ本もすっかり内容を忘れて再読することが多くなった。気に入った文があるとページを折る癖があったが、再読するときはいちいちページを開くのが面倒なうえ、何が気に入ったのかよくわからないこともあった。やれやれ、俺も年だな、と思う。
 その日は長男一家が遊びに来ていた。彼らは近くに住み、ちょくちょく行き来している。家の電話が鳴り、たまたま取り次いだのは息子の嫁だった。幸いだったというべきだろう。
 
 電話を取った嫁が受話器を持ちながら
 「はい、元生徒さんですね、義父にかわりますね」
 と書斎のドアをノックする。
 「お義父さん、電話。なんか、元生徒の佐川さんだか田川さんだか言う人」
 「ああ、すまない」
 電話を受け取りながら、そんな名前の元生徒はいたか、と思うが、思い出せない。
 「あの、もしもし。申し訳ない、ちょっとよく覚えていないんですが」
 「先生、ご無沙汰しています。さっきのは偽名です。もう声じゃわかりませんか」
 「え?いや、もしかして君は」
 相手は旧姓で、と本名を名乗った。
 もちろん、俺が忘れるはずのない名前だった。驚きで手が震えそうになる。
 「本当に君か。元気にしているのか?」
 「ええ、元気ですよ。先ほどの方はお嫁さんですか?」
 「ああ、長男の嫁だ。同居はしてないが今日彼らが遊びに来ていてね。ところで突然どうしてまた」
 「どこかで会うことはできますか?積もる話でもしたいと思って」
 「あ、ああ、都合を検討してみるが」
 俺は一瞬うろたえてしまう。
 「先生、この場で電話はまずいですか。改めましょうか?携帯番号教えてもらえれば後でそちらにしますが」
 「あ、いや、大丈夫だ。来週水曜はどうだろう」
 「はい、大丈夫です。11時くらいまでにはそちらの駅まで行きますよ」
 「わかった、車で迎えに行くよ」
 「ありがとうございます。お願いします」
 そこで電話は切れた。はやく電話を切り上げたくて、あまり深く考えもせず、会うと決めてしまってから、小心者の俺は周囲になんと言い訳しようかと考えてしまっている。そういう自分にも腹が立つ。
 元生徒が訪ねてくる、などよくあることだ。直接家に来ることもあるし、別の場所で会うこともある。家族はよく会う生徒以外の元生徒の名前などいちいち覚えていない。俺だって全員は覚えていない。
 今こんな焦りを覚えているのは、彼女が元生徒のみならず元愛人でもあるからに他ならない。このことは誰も知らない。年に数回しか会わなかったし目に付くようなことは避け、彼女も口が堅かった。共通の知り合いと同席するときでもそれぞれ態度にもおくびにも一切ださなかったから気取られることもなかったはずだ。会うときも用心に用心を重ねて慎重に事を運んでいた。
 それでも、俺は今かなり動揺している。受話器を持ったまま立ち尽くしていると頭の中に当時の彼女の白い裸身が浮かんできた。誰に見られているわけでもないのだが、つい周囲を見回し挙動不審になってしまう。学生時代の彼女、社会人になってからの彼女、俺に組み敷かれ犯されている彼女、苦痛に歪む顔、喘ぎ声、記憶が次々に蘇ってきた。俺がもっと若ければイメージだけで勃起できただろう。
 
 「お義父さん、なんだって?」
 さっそく嫁が聞いてきた。俺は動揺を隠し平静を装って答える。
 「ああ、元生徒がね、会って話をしようって」
 「そうなんだ。生徒さんいっぱいいたから付き合いも大変よね」
 「まあ、昔話ができて楽しいよ」
 「なら、いいですね。あ、お義母さん、お義父さんがね、元生徒さんと会うって」