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ススキノ レイ
ススキノ レイ
novelistID. 70663
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ウィタセクスアリスー言の葉の刃

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 そりゃあ下半身には人格はないとか、そういう場面では別人になるなんて人間あるあるですよ。それは大人になればわかります。でも先生と私はベッド以外の場でもよく知っている間柄じゃないですか。私は先生にとってかわいい弟子ではないんですか?私の性格だって趣味だってわかってて、私たちはそこそこ仲良しだったんじゃないかと思っていたんですけど。私はその辺でナンパした金目当てのヤリマンのギャルじゃないでしょう。なのにどうしてあそこまで私に残酷になれたの?今まで一回も聞いたことなかったんで、教えてほしいんですけど。どうして?ねえ、どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?
 
 
 私は最終的には、先生に愛して欲しいとか恋して欲しいとかはとっくに諦めていて、ただただ私のことを理解して欲しかったんですよ。どれだけ私が先生を愛しているかわかって欲しかったんですよ。当時の私はそういう話を言葉にだせなかったし、そもそも話をする機会もなかったのですが、私がどんな気持ちでいるか、少しくらい知ろうとして欲しかったんです。
 私たちは他にどうしようもないんです。倫理の枠からはみ出して共に地獄を見に行く途中で立ち止まり、その深淵の蠱惑的な闇に憧れながら恐れを抱いて立ち尽くすだけ。ただしそこに飛び込んで心中することは決してない。だって先生は私が見る闇を見ていないし闇の存在にも気づいていない。即物的な感覚で私を犯していただけですもの。
 私だけが闇をのぞき込んで足を踏みはずして死に近い場所に転げ落ちそうだっただけ。それでもいつか先生が私の気持ちをちゃんとわかってくれるにちがいない、という一縷の望みだけで、なんとかぎりぎりで踏みとどまって闇を見続けていました。
 
 時間は人を癒すけれども、傷はすっかり癒えたわけではないのです。私の体を貫いた言葉、呪、は目に見えない澱となって私の中に堆積し、沈殿し、淀んでいる。
 だから、こんなに時を経た今でも、考えていると脳内タイムスリップして、私は恋をする18歳になってリアルに涙が溢れてくる。とめどなく。別に先生を怨んでるんじゃありません。ただ、ある種のトラウマにはなってる。どす黒いエネルギーにはなってる。私のすべての原点はここにある。その後の人生でどんなことがあろうと、帰結するのは結局記憶を封印していても何かの拍子にフラッシュバックしてしまう未だに忘れられなかった最初の恋。
 男は記憶を別名保存し、女の記憶は上書き保存、て何かで読んだけど、確かに上書きして前の男のことはうろ覚えになっていくけど、私の場合、先生との記憶だけはコピーを別フォルダにいれてどこか脳の階層の深い所に残してしまっているんですよね。重すぎて記憶の海の底に沈んで、それをサルベージして消去することもできずに残り続けてる。海底に突きささって沈んでいる難破船みたいに。
 先生は私のことをどれだけ覚えているの?上書きしたくてもそうそう次の女が出てきたとは考えにくけど私に関しての記憶はかなり希薄なのでは?むしろ黒歴史として消し去ってきた?公式なオモテ側の記憶の蓄積で私との記憶、つまり浮気の痕跡を上塗りし封じ込めていきましたか?であるなら、私がどれだけいろんな影響を受けいろんなことを考えていたか、私も話すことがなかったし、先生は考えもしてこなかったのでしょうね。私はねえ、実は初めての日にちを覚えているんですよ。その後の他の男性との最初の出会いなんて大雑把な季節くらいしか覚えてないのに。私は当時どこにも持っていきようのない思いを書き散らしていたノートが10冊くらいたまってしまって、それはもう処分しましたけど、記憶には残ってしまっていたんですよね。その10冊分を凝縮して今語ってるんですよ。
 相当根に持ってるって?狂気を宿しているのは私のほうだって?そうかな。そうかもね。昔先生は「心理学者が寄ってたかれば人ひとり狂気においやるなど容易いことだ」って言ってましたよね。先生にかかれば私をちょっとおかしくするくらい楽勝だったでしょう。だから、ほら、私が少しくらい変でも先生のせいだからね。でも大丈夫よ、私はコントロールしてるから。狂気にのまれていたらとっくに変なことやらかしてたわ。
 「完全自殺マニュアル」って本にこれは親にレイプされ続けた女の子が最後にキレて自宅の庭で灯油かぶって焼身自殺した例が載ってたけど、これは壮絶。でも気持ちはわかる。この子の立場だったら私だってやるだろう。どうせなら家ごと燃やしたかも。筆者も書いてたけどこれを超えるインパクトのある死に方はない。とか思っても、こんな目立つことを私がするわけないでしょう。死ぬ理由を絶対に公にはできないのだから。だからしなかったでしょう。自殺も事故もリストカットも。せいぜい献血をはしごして出血多量で死ねないかな、と考えていたくらいで。万が一何かやらかして生き残っても、何も知らない人を巻き込むわけにいかないんだから、拷問されたって口はわりませんよ。もちろん拷問されたくはないから最初から万が一に陥らないようにしますけど。
 私、錯乱してきてる?妙な知識ある時点で相当やばいって?うん、確かにホラーとか世界の猟奇事件の本とかよく読んでたかも。コリン・ウィルソンとか。「死体の庭あるいは恐怖の館」っていうのがすごかったなあ。イギリスで何人もの若者を男女問わず強姦して殺すような夫婦が自宅の庭に死体埋めてた事件の。マルキ・ド・サドの澁澤龍彦訳も何冊か。桐生操の中世の拷問の話とか、魔女狩りの話とか。欧州行った時ローテンブルクの「中世拷問博物館」もじっくり見学したからね。読書傾向がやばすぎ?映画の「セブン」みたいに図書館の貸し出し記録から辿られたら要注意人物としてマークされそうですよねえ。
 なんでこんなにエグイの好きかって?それは自分を残酷さに慣らすためですよ。自分の状況が十分にエグかったんです。私のハートはめちゃくちゃ傷ついていつも血まみれだったんですよ。だから、自分の精神を鍛えてきたんです。どんな言葉の刃を受けてもはじき返すダイヤモンドのような心臓になれるように。
 心に刺さる度にいちいち血や涙を流していたのでは私の身が持ちませんもの。タフにならなければ生きていられませんもの。おかげで、ずいぶん鍛えられたんですよ。ふふふ。私の中に淀む闇は深いのですよ。結果、それがもはや不要でも、もう習慣になってしまってネットで出てくる猟奇事件のニュースをクリックしてしまうのがやめられないんです…。
 
 まあ、もう時効です。すべて時効。それをお知らせしに来たんですよ。もしかして、気にしてると成仏できないんじゃないかと思って。
 最後に、別れるとき、私が私の取り扱いについてちょっと一言物申したとき、先生ははじめて私に「君には申し訳ないことをした」って少し反省?してたじゃないですか。後で考えて、それが一生気になってると悪いなと思って、きっちり話をしておいたほうがいいかなと思って、来たんですよ。