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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Ironhead

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 さっき、立石からも同じような話を聞いたばかりだ。咲丘は話を頭に留めながら、考えた。菅原は、モズとしてやっていくよりは拠点に張り付きたかったのかもしれない。アザミは、どう答えたのだろう。咲丘がその問いを頭に浮かべたとき、透視したようにアザミは続けた。
「欠員が出たら、一番近くにいる人間が選ばれる。私はそう答えたけど、実際のところは分からないよ。私も一介の中間管理職だからね」
 言い回しは違うが、立石と同じことを言っている。咲丘はうなずいた。沈黙が流れ始めたとき、アザミの右手が静かにイヤホンに伸びたことに気づいて、咲丘は頭を下げると立ち上がった。
「失礼します」
 食堂を出て作業場に顔を出すと、ライフルの銃身をバレルレンチで締めていたツグミが、体重をかける体勢のまま顔を向けた。背が高いけど細身だから、完全に跳ね返されているようにも見える。咲丘が頭を下げると、ツグミは言った。
「アザミさんと話した?」
「はい。三叉路で車を使うって」
 咲丘が答えると、ツグミはバレルレンチを工具箱の中に放り投げて、紙箱から突き出したハンドガードを取り上げた。
「決行が近いから、数日以内にお願い。戻るのが面倒なら、単独で調べてくれても構わないよ」
「地図は見せてもらいました。スピードが乗らないと思うんですが、どんな車を使うんですか?」
 咲丘が訊くと、ツグミは片目を閉じてハンドガードの中を覗きながら、笑った。
「ゲンチョー次第。天気も重要かな」
 納得したようにうなずくと、咲丘はツグミの手が空くのを待った。机の上だけが整然としていて、作業場はゴミ屋敷のようだ。食べ物こそ落ちていないが、工具や部品は床の上に散乱しているか、端に寄せられて山のようになっている。ツグミは神経質な手つきでハンドガードを本体に滑り込ませると、プラハンマーで軽く叩いて押し込み、ようやく顔を上げた。
「お待たせ、ひと段落ついたわ。これ入らなかったら、ナットの手配からやり直しだから」
 咲丘が机に顔を向けると、ツグミは地図が入ったファイルを棚から取り出して、咲丘に差し出した。
「これが、元資料」
「頂戴します」
 そう言って、ファイルを受け取った咲丘が一歩下がろうとしたとき、ツグミは手で制止した。
「ちょいちょい、もうひとつ。あのV10は今でも持ってる?」
 咲丘が上着をめくってホルスターを見せると、ツグミは作業場の段ボール箱から黒い拳銃を取り上げて、言った。
「これさ、同じメーカーのレンジオフィサーってやつなんだけど。口径も同じだから、しばらくこっちを持っといて」
 咲丘はV10をホルスターから抜くと、薬室の一発を抜いて、弾倉と共にツグミに手渡した。レンジオフィサーはV10より少し銃身が長いだけで、ホルスターにするりと収まった。ツグミは三本の弾倉を器用に指に挟むと、差し出した。
「弾倉はこっちを使って。七発ずつ入ってる」
 咲丘は言われた通りに、V10の弾倉をポーチから抜いて、新しい弾倉と入れ替えた。レンジオフィサーに装填して一発目を薬室に送り込んだとき、ツグミは咲丘の無駄のない所作に、やや緊張した表情で言った。
「弾は、ハイドラショック」
「分かりました、しばらくお借りします」
 地図と新しい拳銃のせいで、体自体が別物になったように感じる。ロビーまで戻ったとき、土産物売り場の近くにヒバリが立っていることに気づき、咲丘は自分の方に向かって来ないことを祈った。これ以上、違和感を持ち込みたくない。しかし、ヒバリは目が合うなり茶髪をふわりと振ってこちらに歩いてくると、真横をすれ違った。
 紙片が入っているのは、間違いない。駐車場に出て、ボウズが待つスカイラインの後部座席に乗り込んでも、すぐに開く気にはなれなかった。喫茶パールまでの道を戻る間、あまりにも暗い表情をしていたからか、ボウズから話しかけてくれた。
「えっと、これから仕事ですか」
「うん。でも、いつもと違った。嫌な感じがする」
 咲丘は、不器用にハンドルを操作するボウズの後頭部を眺めながら言った。ボウズはオーディオから流れるラジオのボリュームを絞ると、言った。
「モズはみんな、最初の仕事、嫌がりますね」
「わたしはゲンチョーだよ」
 相槌のように言った後、無意識に背筋が少しだけ冷えた。咲丘は流れる景色を眺めながら、思った。どうして、このタイミングでツグミから銃を渡されたのだろう。もしかして、これが『初仕事』なのだろうか。だとしたら、またホテルに呼ばれるのかもしれない。喫茶パールの駐車場に戻って立石から鍵を受け取り、スイフトに戻ってからもずっと、違和感は続いた。昼の一時。立石が言っていた残土処理場は一時間半の場所にある。咲丘は残土処理場の方向へスイフトを走らせた。何も整理がつかないが、頭が危険信号を鳴らしている。そんな中、ふと頭をよぎることがあった。特別扱いというのは、アザミやツグミが自分に対して、これだけの時間を割いていることなのだろうか。自由にさせて何に気づくか、確かめているのかもしれない。
 残土処理場は工事が進んでいて、中ではショベルカーがダンプの荷台に砂利を移動させていた。基礎を打つための資材が高く積まれていて、まさにこれからといったところ。咲丘はスイフトを走らせながら、外山の言葉を頭に思い浮かべていた。北側へ向かう道に厄介な防犯カメラがあったと、言っていたはずだ。今はそれを逆に辿っている。やがて谷側に張り出したカメラが見えて、咲丘はスピードを緩めた。待避所にスイフトを停めて運転席から降りると、小走りでガードレールまで駆け寄った。確かに、アーチは谷側に張り出している。しかし、その真下に検査路がある。これがあるなら、簡単に回線をバイパスできたはずだ。咲丘は辺りを見回してから、防犯カメラの死角になる位置に体を滑り込ませて、検査路を見渡した。手すりの近くに銀色の小さな銘板が打ってあり、咲丘は顔を近づけた。平成二十七年に施工されている。だとしたら、外山が現地調査をした四年前の仕事でも、この検査路はあったはずだ。見逃すとは思えない。
作品名:Ironhead 作家名:オオサカタロウ