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猫の女王

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「あの女は、もと私の下で働いていた従者でした。時々マタタビで人になり、私の供で人間社会に同行しました。ですが、私の存在と居所をつきとめ、突然あの女が人の姿で私を訪ねたのです。なにかと悪い噂のある従者でしたが、改心の機会を与えていたのです。

あの女が私に恨みを持っていたことは知っていました。いろいろ話を聞かせてやろうと、とにかく家に入れ、パジャマに着替えさせました。そして食事の用意で後ろをむいたとき、私の飲み物にマタタビの赤い粉を入れるのを壁の鏡で見たのです」
米田トメは、ごくんと唾をのんだ。

「以前、人になったとき、緊急用にほんの少しだけ渡しておいたものを使ったのです。まさか、殺したいほどの恨みを私に抱ているとは思っていませんでした。席について向かいあったとき、彼女の背後の壁に貼ってあった日ノ元の地図を説明しながら、飲み物を自分のものと取り替えました。そうせざる得ない状況でした。翌日に弔(ともら)うつもりでしたが、緊急に用ができてしまい、さらに鬼花郷の連中に捕まってしまい、あのまま布団のなかで干乾びさせてしまったのです」

「布団のなかの猫は、あなたがやったという訳ですね。その猫はだれかに頼まれたとかではではなく、個人的な恨みだったんですね。事件はこれで一応解決したようですが、この場合は殺人になるのか猫殺しになるのか、どっちなのかなあ?」
灰猫の八田は、猫になってからもまだ刑事の立場が頭から離れなかった。

「あのう……」
ほっとしたところで銀次郎は、マタタビの話もでてきたついでにヨボジイについて聞こうと息を飲んだ。
すると足音を乱し、日ノ元の猫につれられた黒毛にちかい若いサビ猫が座敷に現れた。

「こいつ、白猫の春野うららさんとかいうやつから預かった密書を持っているそうです。七千代署の刑事で八田さんか、三毛猫の高田銀次郎さんに渡したいそうです。銀次郎さんの部屋を訪ねたけれど誰もいなかったので、あちこち探していたら公民館にいると教えてくれる者がいて、こっちにきたそうです」

なんと白猫の春野うららが、伝令に密書を託してきたのだ。
うららは、ドラ猫合唱隊の隊長のクロにハニトラをしかけている最中である。

公民館が解放されたと聞き、日ノ元の猫たちがさらに集まった。
みんなで歌を唄い、大騒ぎである。
噂を聞き、団地の外からも続々とやってきているようだった。
ハニトラに引っ掛かった鼻黒のじじいも、大きな口を開け、みんなとうれしそうに日ノ元の歌を唄っていた。

異国人に占拠され、サビ猫の天国になった公民館である。
日ノ元団地の住民は気味悪がり、誰も近寄ろうとしなかった。
このときの騒ぎも、いつもの異国人と猫たちのものと思ったのである。
どうなっているのかと、公民館をのぞきにも行こうとしなかったのだ。
作品名:猫の女王 作家名:いつか京