猫の女王
「おれもケンドーやる」
「おれも強くなる」
「やつら、みんなやっつけてやる」
「にやあおおー」
大歓声があがった。
「にやああー」
「にゃおおおおー」
「おーいみんなー。隠れてないで、でてこいー」
一匹が棟にむかって叫ぶ。
「勇気をだせー」
「このまま黙っていると、未来はなくなるぞー」
「みんなでやるんだー」
「おーう」
このやりとりと歓声が周囲の棟に反射し、あたりに響きわたる。
すでにあちこちから姿を見せていた日ノ元の猫が、あっという間、五十匹以上になっていた。
どこに隠れていたのか、頭をふりふり急いで駆けてくる。
ふらつきながら、男女の年寄りもやってくる。
八田も銀次郎も、どうしたものかと目を見張った。
今まで、しんとして姿も見せていなかった日ノ元団地の猫たちだ。
「憎々しく思っていても、ずっとなにもできなかったんだ」
「みんな隠れていたんです。どんどんやってきます」
「ここは八街区までありますから、もっと集まってきて、軍隊がつくれますよ」
どの猫も目を輝かせ、やる気満々だ。
「八田さん、いい機会です。みんなをつれ、公民館を奪還(だっかん)しにいきましょう。大勢で押しかければ、あいつらはおどろいて逃げだします。こっちが大人しいと思って態度がでかいだけで、ほんとうは肝っ玉小さいんです。号令かけてください」
「日ノ元族には、反抗する気がまったくない、やわなやつらだ、と油断しているとき、奇襲をかけよう。公民館を襲って幹部とかボスを捕まえれば、ヨボジイの居所も分かるかもしれないぞ。おーい、みんな聞いてくれ」
八田が呼びかけた。
「さっき公民館に行ったら、日ノ元の言葉もろくな話せない鬼花郷のサビ猫がいて、人間も異国人ばかりだった。あそこはここに住んでいる日ノ元の住民が利用する施設だ。異国人に飼われていた鬼花郷の警備隊とやらも、大半をやっつけたので今がチャンスだ。団結して公民館を奪還するんだ。お年寄りの方々は、後からなんらかの役割がでてくると思いますので、とりあえずはそこらでゆっくりしていてください。奪還したら知らせます。みんな、いいかあ」
4
「にゃおうー」
「ぎゃああーう」
「うおーう、うおーう」
「にゃあ」
歓声があがった。
思いがけない展開だった。
「公民館をとりもどせー」
「いくぞー。それえー」
銀次郎と八田が機会を逃すなとばかりに、先頭に立って歩きだした。
集まった猫たちがあとについて動きだす。
ぎゃう、ぎゃうっとその足元から悲鳴がおこった。
それは、さっき銀次郎がやっつけた警備隊の猫だった。
負傷したサビ猫を、みんなで踏みつけたのだ。
一部の猫が刃物を拾って口にくわえ、真似をしてみたが、日ノ元の猫には似合わないとやめてしまった。
総勢はいつの間にか七、八十を越えていた。
それでも、さらに四方八方からぞくぞくと集まっていた。
日ノ元の猫たちの力強い行進がはじまった。
そして全員が歌を唄いだした。もちろんどら声ではない。