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猫の女王

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他の隊員が頭をさげ、謝る。
「ごめんなさい。私たちのせいで。ごめんなさい」
思わぬ騒動に、希星たちもあわてる。
    

その間に、三毛の銀次郎と白猫のうららが互いに近寄った。
「どういうことですか、刑事さん」
「いろいろ捜査中だよ」
うららが唇を動かさずに応える。

「ヨボジイ探してたら、花壇で休憩していた合唱隊にでくわした。ちょっと話したら、隊長のクロがヨボジイ知ってるって素振りだったし、おれと付き合えとも言いだしたので、やつらやその背後を調べるのに丁度いいって考えてね。やつら、これから本部とやらに戻るところだし、ついていってヨボジイのこととか知りたいことを知ったら、逃げだすつもりだよ」

二匹は横にならび、反対方向に顔をむけた。
会話などしていないような演出だ。
「朝飯食ってたときに現れたこの合唱隊だけど、隊長のクロが階段の上からじっとうららさんを見詰めていました。そのときに気に入られたんですね。ついていってアジトを探索するのはいいとしても、油断していると力づくでやられちゃいますよ。見てください、みんなぎんぎんに持て余していて、いつでも爆発しそうな連中ばかりじゃないですか。大丈夫ですか?」

ダイジョウブは本気の心配だった。
うららは少しばかり年上の男の意見を黙って聞き、うんうん、と二回うなずいた。
「あの三人のかわいい彼女たちは何者?」
今度は白猫のうららが聞く。

「やっぱり鬼花郷の生まれで、歴史同好会女子部の者だそうですが、たぶんハニートラップの尖兵(せんぺい)です。日ノ元の歴史に興味があるので教えてとかで、それらしき者に接近するつもりなんだけど、他には日ノ元の言葉を勉強する女の子も団地内に侵入しているみたいで、あの子のようにみんな可愛いいんだそうです」

「あの娘たちを見たら、男はたちまちその気になるんじゃないの?」
自分もサビ猫のクロによだれを流させている事実に、うららは気づいていない。
白猫のうららと三毛猫の銀次郎は、そっぽを向いたままだった。
ただし、両者とも合唱隊の隊長や隊員のようすは横目でしっかり捉(とら)えている。

銀次郎は、自分が経験したエサバーや一街区でのできごとをすばやく報告した。
「どうやら、目的のためなら殺しなんてなんとも思っていないようで、恐ろしい連中ということも分かった。だから、合唱隊についていくのは、とても危険です」
最後に銀次郎は、実感のこもった一言をつけ加えた。
「だいじょうぶ。なんのために刑事になったと思うのよ」
うららは強気だった。

「ところで、八田刑事さんはどうしているんですか?」
「わたしがこっちに行進してくるとき、先の通りを餌場のボランテイアのおじさんとおばさんの後について横切っていったけど、それっきりで分からない」
八田刑事は、猫に餌をやっているボランテイアの二人を尾行しているらしかった。

「その、横切ったというのはどの辺?」
「さっき、むこうの方から歩いてくるときだったから、その先をいった右側の路地かな。見かけたのはほんの少し前だよ」
銀次郎は横目で、目の前にひろがる大通りを確認した。

合唱隊の隊長と隊員と歴史同好会女子部の三人との話し合いが終わったようで、隊員が列をととのえようとしていた。
白猫のうららも、あわててもとの自分の場所にもどろうとする。
「うららさん、ハニトラでやられないように気をつけてください」
ハニトラは、セックスまでいって関係を確定的にする。

合唱隊はサンマの代わりの月の丸の旗をくわえ、うーうー唄うクロを先頭に、全員で歌を怒鳴り、離れていった。
唄いながら、怖い顔であたりを見回す合唱隊。
沿道に日ノ元の猫の姿を発見するや、眼光鋭く睨みつける。
それだけで大人しい日ノ元の猫たちは、首をちぢめる。

そのため、月の丸の旗や日ノ元の歌には、怖いのとダサいイメージが浸透した。
そして、地域の誰も旗を掲げなくなったし、歌も唄わなくなった。
その結果、いつの間にか日ノ元郷意識さえ喪失しようとしていた──と言うのが、最初にここで知りあったマダラ猫の解説である。

歴史同好会女子部の三匹は、道の端をついていく。
口を動かし、小さな声でいっしょに歌を唄っている。
永遠の平和を願うが、自己の利益を追求するリーダーは神の意志に反する、とそんな歌詞の意味を知ったら、あの娘たちはどうするのか。

自分の家に戻ろうかと、銀次郎は迷った。
うららも大いに心配だったが、大通りを横路に入った八田刑事も気がかりだった。
作品名:猫の女王 作家名:いつか京