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猫の女王

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手足を奪われて腹這ったとき、尻尾も切り落とされた。
茶トラは、楕円形の肉のかたまりとなり、わめいて地面をローリングした。

この残酷な待ち伏せを、物陰にひそんでいた日ノ元の猫たちが目撃していた。
しかし、誰も助けようとはしなかった。
蒼ざめ、ただ震えていた。

三毛猫の銀次郎は、エサバー出身の女に頭突きを食らわせたおかげで体勢がくずれた。
だから、茶トラよりも一足遅れた。
銀次郎は、茶トラの叫び声を聞いて事態をさっした。

銀次郎は、下の芝生に陣取る殺戮隊の背後に跳んだ。
着地と同時に、後ろから一匹の首筋に噛みついた。
するとそのサビ猫は、くわえた刃物を口からこぼした。
その刃物を、銀次郎は口で拾った。

明らかに、殺傷のために用意されたものだった。
刃先が鋭く磨がかれていた。
「いやあ」
銀次郎は小さく叫んだ。
まずはその刃物の持ち主の下半身を、一気に払った。

四本の足を一瞬にして失ったその猫は、どすんと胴体で地面に這った。
おどろいて銀次郎を見あげる。
「おれは昔、剣道やってたんだ」
今さらのごとく、銀次郎は思いだした。

銀次郎は顎(あご)と腰に力をこめ、左右に首をふった。
切れ味のするどい刃物だった。

相手の肩口を傷つけるつもりだったが、右と左にいた二頭の首をぽろっと落した。
「ぎゃおー」
叫んだのは、三毛猫の銀次郎のほうだった。

あまりにもあっさり首が落ちたからだ。
だが、サビ猫たちはそれを銀次郎の雄叫びととらえた。
こうなったらついでに、みんなやっつけてやる、見てろ、と銀次郎は殺戮隊のなかに飛びこんだ。

「いあやっ、おうっ、ええいっ」
懐かしい剣戟(けんげき)だった。
茶トラを残酷に切り刻んだサビ猫たちを、次々に斬り倒した。
情けは無用だった。
おれは玉のついた三毛猫だ、どうだ、と名乗りたくなるほど高揚した。

刃物を持ったサビ猫たちは、ただ首を左右に動かしているだけだ。
銀次郎から見れば、子供のチャンバラごっこだ。
茶トラがやられたように、手あたりしだい相手の手足、尻尾を斬り落とした。 

斬られ、転がって悲鳴をあげる仲間に、鬼花郷の殺戮隊は震えあがった。
「に、にげろ」
あわてて逃げだした。
悪い奴は危機を感じたら、稲妻よりも素早く逃げる。

あとに、首と手足のない肉の塊がいくつも転がった。
とりあえずは三街区へいこう、自分の部屋にもどろう。
銀次郎も、芝の庭を駆けだした。
早く八田刑事やうららに会い、報告したかった。
作品名:猫の女王 作家名:いつか京