猫の女王
穴が、以前よりも深くなっていたのだ。
さらに穴の底に、ぽこんと二ヶ所、凹みができていた。
それは昨夜、証拠物件として八田が押収していった瓶とおなじ形のようだった。
すっぽり引き抜いていった跡だ。
「八田さん。誰かが掘って、残っていたマタタビの瓶を持っていったらしいんだけど」
「なんだって?」
八田とうららが、銀次郎にならんで穴をのぞきこんだ。
「なにかの間違いだろ」
「もっと下のほうにあるんんでしょう?」
「よーし」
あわてて銀次郎と八田とうららが、両手で穴の底を掘りだした。
だが、いくら掘っても瓶はでてこない。
「いまの二ヶ所の跡は、昨日、最初の瓶を見つけたとき、その瓶で底を突いてできた跡じゃないのか?」
八田が銀次郎に確認する。
「ちがいます。その瓶を見つけたとき、穴の外ですぐに蓋をあけ、なかを確かめたんです。さっきもこんな跡はなかったです。この二つは、誰かが掘って抜き取った跡です。間違いありません」
「じゃあ、やったのは誰だ?」
八田とうららと銀次郎は、のぞきこんでいた穴から体をおこした。
首をのばし、あたりを見回した。
すると背後のツツジの垣根のほうから、低い声が聞こえてきた。
「おめえら、そこを掘って探しもん取りだそうとしているらしいけど、さっきおれが二つの瓶を見つけて預かっといたぞ。おめえらが飯食いにいく前から、おれはここでようすをうかがっていたんだ。おめえらは何者だ。どっからきた」
穴の縁に両手をつき、三匹の猫が首をひねってふり返る。
そいつの姿はツツジの茂みの陰で見えない。
「そういうあなたこそ、何者なのよ」
白猫のうららが言い返した。
「おれは、ヨボヨボじいさんだ。ここではヨボジイって呼ばれてる。おれの質問に答える気がなさそうだな。そういうことなら、中味は預かっておく。その気になったら訪ねてこい」
ざざと藪が騒いだ。
ささっと足音がした。
あっという間、遠ざかっていく。
じじいを名乗りながら、かなり身軽だ。
「おい、ちょっと待て」
「こら、待たねえか」
「ヨボジイさん」
持っていかれたら、永遠に人間にもどれなくなる。
それにヨボジイとやらは、訪ねてこいと言いながら場所も告げず、どこかに行こうとしていた。
三匹でいっせいに、ツツジの茂みに飛びこんだ。
そこには細長い瓶が二つ転がっていた。
マタタビが入っていた瓶だ。中身は抜いてあった。
あわててそれぞれの方向を見回した。
が、ヨボジイとやらの姿は見当たらない。
「野郎め、話しているとき、跳びかかって捕まえとけばよかった」
「いや、まだその辺にいる。三方に別れて追おう」
「じいさんだから、すぐに追いつく」