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猫の女王

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そうか、まだ容疑が晴れていなかったかと、人間のときの現実にもどされた。

「さあ、みんな。朝のご飯しっかり食べてよ」
左江子さんは、明るい声で他の猫たちに語りかけた。
バケツからお玉ですくった雑煮(ぞうに)をまた皿に分ける。
茶白のマダラとその仲間たちは、他の猫にまじり、けんめいに餌にかぶりついている。

植松さんと佐江子さんは、そんな猫たちを満足そうに眺めている。
二人は、他にも団地の数か所で猫たちに餌を配っていた。
だから餌場が決まっている猫は、いくら香りが漂っても自分たちの場所以外にはやってこない。

「猫ちゃんたち、またな」
「新入りの三毛ちゃん、灰毛ちゃん、白毛ちゃん、ばいばいね。キンヌキとかはしないから、がんばって子供つくってね」
二人は去っていった。

餌場の皿は後で回収するのだ。
ほら、また言ったけど、と銀次郎は口にしそうになったがこらえた。
白猫のうららは、知らん顔で餌を食っている。
マダラの仲間や他の猫も、三つの皿にかぶりついている。


すると、妙な鳴き声が聞こえてきた。
「ごろごろろ、にゃあにゃあ、にゃあおうがあ」
恐ろしいような響きでもある。
しかし、まちがいなく猫の仲間が発する声だった。

「きたな」
茶白のマダラとともに、他の猫たちもいっせいに皿から顔をあげた。
銀次郎も八田もうららも、マダラの視線のほうに顔をむける。

広場は擂(す)り鉢状(ばちじょう)になった階段の下にある。
階段の上からは、団地のど真ん中を南側に一直線につっきる大通りが走る。
その終点にはスーパーを中心にした商店街がある。

だが、消費のすくない老人たちが多くなり、店の大半はシャッターをおろしている。
その団地のメイン通りを、ごろごろろ、にゃあにゃあ、にゃあおうがあ、と唄声とも叫び声ともつかぬ響きが、円形広場にちかづいた。

そして、階段のいちばん上の縁に、サビ猫が姿を現した。
白や茶や黒の毛が細かく混じりあった猫である。
サビ猫は入り混じった毛色で全体的には黒っぽく見える。
目の色は茶緑。からだが大きい。
しかも一匹ではない。五匹ずつ二列に隊を組んでいる。

先頭の一匹とあとに従う十匹が、唄いながら行進しているのだ。
『ごろごろろ、にゃあにゃあ、にゃあおうがあ』
そう唱い、行進している。この響きだけでも不気味だ。
「なんだ、こいつらは」
当然、三毛猫の銀次郎はマダラ猫に訊ねた。

灰猫の八田も白猫のうららも、階段の縁を見あげる。
「ああやっていつも騒いで行進しているけど、なにかをする訳じゃない。前にもちょっと触れたけど、これが自称ドラ猫合唱隊だ」
マダラ猫は、困ったように眉根をよせた。

「ふーん、ドラ猫合唱隊か」
銀次郎も階段をあおぐ。
「ほら、唄うよ」
黒っぽい影が、石の階段の上から大きな茶緑の目で、下の餌場の猫たちを睥睨(へいげい)する。
先頭の特別に大きな一匹は、黒にちかい毛色だ。
そのサビ猫たちが、ふっと胸をふくらませる。

作品名:猫の女王 作家名:いつか京